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「ファンタジー 輝石シリーズ」
泣き虫王子と三つの輝石(改訂版)

それぞれの輝石 2  (泣き虫王子と三つの輝石)

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「少しばかり此処を離れようかと思う」

「どのような理由じゃ?」紫眼の少女が頭巾に覆われた顔を見据える。

「一年前にあやつが漏らしていたように、南西の海原に不穏な影が立ち込め始めている…」
黒衣の男は顔を南西に向け呟いた。

「ポルはどうするのじゃ、そちの予見は?」少女は問いただす。

「この地はルナン、君に任せる…今は成就の時期には程遠く…何れこのうねりが幾つもの予見を結びつけることになるだろう」

「主もあやつもか…」

「そう、そして新たなる不穏の大渦と…」



翌朝早く旅だつ男を見送りながら少年は、少女に問いた。

「ねえ、魔女様。リンクス卿は何処へ行ってしまうの?」

「奴には奴の定めがありその下へと向かうそうじゃ。そしてポルよ、そなたにも亡くなられた英雄王とは違う定めそなただけの定めがあるのじゃ」

「ボクの定め…」

「そうじゃ、何れ時満ちたとき、この大陸に秩序を取り戻すためのな」

「じゃあまた会えるね」

「そうじゃ、我らが三つの輝石がそなたのもとに揃う日にはじゃ…」

代わり映えのない春の季節に、新しい風が吹き始めたことをルナンは密かに感じていた。





ー 一年前 大陸北西部 ユグドラス高原 ー

「いかん!カーロン!右翼の布陣が崩れ始めおった!」

「ちっ!!またあの小僧か!?」紫の魔女の声に終わりなき狂戦士が舌打ちをした。

押し寄せる小柄で醜いドヴェルグと呼ばれる魔物の群れが、長い腕を振りかざし、手にした斧や十字鍬をやみくもに振り回しながら味方の軍列を突き崩してゆく。

「このぉ!チビどもがあ!!」

最前にいた赤毛の戦士は、鬱陶しく立ちはだかる小柄な一団を一閃し踵を返す。

「ルナン!!ポリティシャンへの道を!!」

戦士の声に乱れ惑う争いの場に一筋の光が右手方向に渡る。その紫の輝きの筋を駆けながら、戦士は次々と血潮の飛沫を上げてゆく。手にした邪剣を閃かせながら。

進みゆく先に群がる魔物どもを切り崩している内に、馬も失い逃げ腰で下がりゆく若き士官の姿が垣間見えた。

「くそっ!」群がる化け物の輪の中に飛び込み内側から切り倒す。

魔物たちの死骸の中一人取り残された形の先ほどの無様な人影を、カーロンは怒りにまかせ剣の腹で打ち飛ばした。

カーロンはゆっくりと歩み寄り、倒れこみ仰向けになった怯え顔の横にずぶりと邪剣をつきたて、その顔をのぞき込む。

「おい小僧!言っておいたよなあ?大将のてめえが逃げ出しちまったら、敵の軍勢を何百も切り殺してきた俺様達の苦労が消えちまうんだよ。てめえの親父のようになれとは言わねえがいい加減その腹をくくらねえと、そのの役立たずの首を打ち落としてこんな徒労はやめちまうからな!」

狂戦士の証その真紅の瞳を一層血走らせ、本気の声で脅しかける。

「ご、ごめんよ、カーロン…、お、恐ろしさに脚が震えて、脚が勝手に動いて…」

顔をあげ、ガクガクと震えながらしどろもどろに答えが返ってくる。

「だったらなあ、その脚…二度と勝手な事をしねえように今すぐ俺様がぶった切ってやるぜ」

深々と突き刺さっていた剣をあっさりと引き抜き、戦士は邪悪なるその大剣を若者に打ち下ろす。

しかし、邪剣は虚しく土を抉るばかりだった。


「確かになカーロンよ、こんな軟弱な脚などポリテシャンにとっても無用の長物じゃが、世の王には見てくれも大切でのお、今ここで切り落とさせるわけにもいかないのじゃよ」

怯える若者を膝に乗せ、紫の着衣の少女が代わりに答えた。

「邪魔をすんじゃねえ、この腐れ魔女が!その泣き虫野郎の何処が王だ!」

再び大剣を振り翳し行き場のない紅蓮の怒りを振り回す戦士。

「わしが言うておるわけではないのは承知であろうカル。黒衣の山猫の視る先は揺るぎなくそしてそれ故に真実じゃ」

「主も身に染みて知っておろう、まずはこの争いの勝ち負けが、王への長き道の導となることを」

その名を聞いたとたん大人しくなる狂戦士。

「くそっ、勝手にしやがれ!」

紫の淡い光に包まれたままの若者とその場を残して、怒りの収まらない戦士は再び争いの最前線へと駆け出した。




自軍の本陣を取り囲む小柄なドヴェルグの群れを大概なぎ倒した狂戦士は、狂った咆哮を上げ続けるオークが大半を占める敵の主軍と対峙した。

「こいつらなら、相手にとって不足ねーな」

不敵な笑みを浮かべた狂戦士と咆哮と共に押し寄せる魔物の群れ、狂える物どおしの死闘が始まる。

大剣が野太い首を切り裂き、手にした武器を振る前に腕を切り落とし、胸当てに守られた躯体さえも切り分けてゆく。紅蓮の閃光を閃かしながら。



吹き上がるどす黒い鮮血で十数体ほどを染め上げた頃だろうか、オークの集団の中心から異様な瘴気が漂い始めた。

「ん?なんだ?」

眼球を裏返し泡を吹きながら痙攣し始める剛獣達。

「カーロン!気をつけるのじゃ!デ・ジェネレイションじゃ」ルナンの叫びが上がる。

「なんだそりゃ?」邪険を構え直し異変に備える戦士。

「退行化した[シャーク]は素早いぞ!」

叫びが消えぬうちに、剛毛が抜け落ちてのっぺりとした姿にと変わり始めた白い影が目に見えない速度で戦士に次々と襲いかかる。

大きく裂けた口の鋭いいくつもの牙が噛み千切るように狂戦士を傷つけ始める。

「こいつは防ぎきれねえぜ!なんとかならねーか?」

必死で邪剣で防ごうにも、無数の牙は閃光のような速さでカーロンを追い詰め始めていた。

「今、やっておる!次元の扉を開くから其処で立ち向かうのじゃ!」

戦いの脇に突如光りだした紫の光球にカーロンが飛び込むと、周りのものすべてが緩慢な動きに変わっていた。

襲いかかる敵の動きは速さを緩め、今度ははっきりと見えだしたのだった。

其れに合わせて大剣を振りかざす戦士。

しかし、自らの腕も鉛のように重く思うように素早く動かせない。


「これでどうしろってんだ!ルナン?」見える分だけ攻撃を交わしながら、叫び声をあげるカーロン。

「何も主が素早くなったわけではない、見え出した敵を打ち取るのは主の仕事じゃ」

「くそったれめ!」

のろのろと緩慢にしか動かない腕を、渾身の力を込めて降り出す戦士。

襲いかかる牙の軌道を察知し、交わす動作に合わせ最短最良の動きで剣を振り払う。

苛立ちが募る緩慢な紫の世界で必死の形相で戦い続けるカーロンの姿は、他のモノの目からは白い影と同じく目に見えない赤い残像となって映し出されていた。


襲いかかる無数の白い影を、紫の軌跡をともないながら赤い閃光が切り払ってゆく。

斬撃と怒号の中、無限とも思われた白い影は次々と大地に崩れ落ち次第にその数を減らしていった。

激しい攻防の合間にゆらりと姿を現す戦士の赤い影は、心なしか肩で息をし苦しげな表情に見て取れた。


「あと二、三日は持つとは思うていたのじゃが、もうそろそろ潮時かのお…」

紫の魔少女のつぶやきに、不安げに若き指導者がその顔を見つめた。


不意に辺りが暗くなり黒い闇と化した空が、横に裂け低い重い声を語りだした。

「な、なんですかあれは」天を仰ぎ、驚きに腰を抜かす若者に少女が応える。

「ダークリンクス、あれこそが真実の代弁者じゃ」

「鳥よ、狂えしツルギはやがて血にと染まる。嘆きの赤い舞は一昼夜は続くであろう」

神のお告げとも思える荘厳な言葉が響き渡った。


「…お節介な猫じゃが、助かったわい」

「わしはともかく、此処でポリテシャンを失うわけにはいかぬからの…」

そう言った少女は、見方の軍勢に次々と撤退を指示し、傍らの若者と共に新たなる強固な紫の結界にと潜り込んだ。

「ポルよ、この中におれば安全じゃ」

「このままでもカルの奴は完璧なる最強の戦士じゃ、大陸でも奴にかなう戦士など今はおらん、粗暴で短気で下劣ではあるがの…」

「じゃが、奴の真の姿、古の騎士としてのアレは次元が違う。避けようのない天災の如く無慈悲な神の裁きの如く、アレはこの辺り一帯を場合によってはその出現した地方全部の生きとし生けるものを、時として切り裂いて全て滅ぼしてしまうのだ。敵味方の区別なく善悪の区別なくな…」

「近くに居てその滅びの裁きからは逃がれることなど叶わぬ、このように違う次元にでも逃げ込まぬかぎりな」

「そんな…彼は今のままでも十分に狂戦士と呼べるほどの強さであるのに…」

ポリテシャンの声を遮るようにルナンが叫んだ。

「見るのじゃ、哀れなる狂騎士の赤い舞いを、悪夢に囚われし嘆きの姿を」




そしてそれは唐突に始まった。

「………何処に?」

どよめいて怒号飛び交う戦場の中、静かで哀しげな問いかけが微かに響く。

立ちすくみ俯いた戦士は深紅の嘆きのような輝きに包まれ、普段の粗暴な態度とは打って変わり、泣いている迷い子のようにさえ見て取れた。


「過度な戦いが失われた思い出を誘ってしまったようじゃな、こうなってはわしでさえも手がつけられぬ」

ルナンがつぶやく間に、戦士がゆっくりと面を上げる。

「………其処でありますか?」

その問いかけに辺りを取り囲み様子を伺っていた邪悪な白い渦が飛散した。

何が起きたのかもわからぬ出来事だった。

辺りを見回すたびに戦士がつぶやくたびに、周囲の者が切り裂かれ崩れ落ちて逝く、敵見方の区別なく。

あっとゆう間に戦士の周りが静まり返るとその姿はふわりとかき消え、遥か遠くの群れ惑う敵軍の真ん中にそれは忽然と現れた。


其処から先は皆同じであった。

「此処におられるのか…今…お助けに………」

つぶやきが起きるたび戦士の周囲は虚しい沈黙にと変わってゆく。

応えるものなど一つもなく、行き場のない戸惑いと消えることのない哀しみだけを其処に残して。


「アレは遥か昔、自らの手で失ってしまった最愛の主人の存在を見出そうとしておるのじゃ、そのために周りの動くもの遮る全てを切り裂きながら探し回る。もう二度と見舞う事無き主人を探し求める哀れな行為じゃよ」


その音もなく一方的な戦いとさも言えない残虐的な哀しき放浪は、それから一昼夜に及んだ。

あの黒い空が告げたとおりにと。


惨殺の昼夜が明けた頃には、動くもの全てが滅んだ何もない大地に、声もあげずに泣く戦士がただ独り立ちすくばかりであった。






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