Dragon's woes

龍の災難  2 (漆黒の邪龍 ダーティードラゴン)

 ←龍の災難  1 (漆黒の邪龍 ダーティードラゴン) →_

食事を終え部屋へと戻った俺達は、支度をして出かけることにした。

もっとも俺には支度なんて必要もなく、手ぶらで軽装、腕にはブレスが三つ。

いつもと変らない。

ミッション工作用の特殊重装備の類をはずしただけだ。

支度のやたらかかってるガーディをおいて、とっとと部屋をあとにした俺は、女房が予約したオートボートに先に向かう事にした。

エントランス脇に設置されてるボートピットは、リゾート気分のカップルで賑わっている。

場違いな俺の格好に、痛い視線がそそがれる。

そういえばここは、ハニムーンのメッカとかガーディが言っていたっけ。

痛い視線を巧みにかわしてポートに向かうオートボートに乗り込んだ俺は、遅れてエントランスにあらわれたガーディの姿をみて天を仰いじまった。

痛い視線が別の驚きには変ったようだが。

「お待たせ~、アナタ」ガーディが浮かれた口調で乗り込んでくる。

「EE!( * end of empire  帝政の終わり つまり 世も末の意味 * )一体なんて格好だ。それに、その後ろの莫迦でかい荷物」呆れ顔で俺は言った。

もっとも荷物の方は、ポーターがすぐさまオートに積み込んでいったが。

「あら、船の名前にちなんで衣装を合わせたのよ。マダムと言えば華やかなものでしょ?荷物の方は、衣装データが大半よ。残りはひ・み・つ」すぐさま寄り添い、腕を絡め話し始める。

ガーディの纏っているドレスは、肩口をかるく結んだだけの胸と背中がザックリと開いた真っ白で半分ほど透けているものだった。どちらかと言えば俺の好みに値はするが、俺は相変わらずの黒尽くめ。

まぁ、休暇って事もあって、ラフなシャツとパンツスタイルだから、かろうじてリゾート気分は出てるはずだが。見た目には不釣合いな二人連れだ。

「船の名前は古の古事にちなんで、’CUTTYSARK’と言うそうよ。昔は遠くの地に海路で産物を運ぶのが、この辺の主な仕事だったんですって。ロマンチックな名前だと思わない?」胸を摺り寄せ、抱きついた美女は俺の耳元に唇を寄せる。

「その古い酒と、どう関係が?」俺にはちんぷんかんぷんだった。

「やだわファン、そうじゃなくって帆船。船の方よ。その当時の船の名前の由来の魔女のこと。それをイメージしてみたの」さらに胸を押し付けてくる。

…EE 今度は魔女かい 妖艶ではあるけどよ
ちらりと胸元を覗いて呟いた。

ダークグリーに輝く海を横目に他愛のない会話は続く。

こっちは服飾の歴史なんてさっぱりだ。酒なら多少はくわしいがなどと思いながらも。

「確かに、ファンの好きなAL.J.W(アルタイルジョージウオーカー 強めの蒸留酒)なんかの元になった古いお酒のなかにも、同じ名前のものがあったけど」

「俺は、そっちしかシラネエけどよ」うんざりと応える俺。美女との会話は退屈はしないが、内容は少々飽きてきちまった。

『オ客様 到着デゴザイマス オ荷物はドチラヘ?』抑揚のない音声が響いた。
…やれやれ 助かった
俺は溜め息を飲み込んだ。やっと終幕だ、最初のシーンに過ぎないが…。

「衣装ケースは、船の部屋までお願いするわ」

『カシコマリマシタ マダムDD』
お決まりのやり取りの後、妖艶な魔女とその旦那は、港へと降り立った。

窮屈なボートから見晴らしの良い場所へと出た俺は、軽くのびをする。

「お待ちしてましたマダム」例のオヤジが出迎えてくれた。

「船は少々変ってますが、設備装備は惑星で最新のモノとなっていますから」

「あら、ありがとう、大変楽しみだわ。お買い物以外の楽しみはあるのかしら?」

「プライベートプールの他、各種の娯楽設備、もちろんお食事も豪華に豪勢にそろっております。ナイトクルージングの際には、スペシャルホールラウンジにて洒落たショーなど繰り広げてムードを高めますので」

相変わらず良く喋るオヤジだ。

「殿方には、古今東西、各地各種の酒に珍味、秘蔵の古酒まで。むろん船にちなんだあの酒までも堪能できます」

…意外とイイオヤジなのかも
勝手な事を俺は思い始めちまった。


「ささ、こちらです」

案内された駐留する多数のフローテーションライナーのなかで、そいつは強烈に目立っていた。

博物館の展示物か?とも錯覚するそのホルム。

帆がついてやがる。

しかも水の上に直接浮かんでいる。

もっとも擬似映像の類だろう、軍用の特殊迷彩装甲みたいなものだ。みてくれと勝手が違うとゆう奴さ。

「まぁ、素敵。浪漫をかんじるわ」それをみてガーディの奴は大喜びだ。

「擬似帆と水没した船体は単なるフェイクで、帆に見せかけた上部部分はソーラーエネルギーの吸収に使っております。船体はシールドで囲まれ安全性は保障済みです。華麗でエコな船旅をお約束しますよ」

オヤジはDOYA顔だ。


乗り込む際に、俺達より異色な集団をみかけた。

「オーナー、あの方達は?」ガーディの問いに、訳あり顔でオヤジが声を潜めた。

「実は、なんかのNCMの撮影の為に搭乗するらしいのですが、船外の撮影もあるとのことで、危険だからお断りしたところ、『身の安全は自分たちで取る。責任の追従はしない』の一点張りで、実に大企業は横柄ですな」

「それは迷惑な話ね、事故でもあったら…」

「そうですよ、私も気が悪いし。なんていっても評判が。多額の保障保険を頂いたので、それでなんとか承知したのですが」

…やっぱり 強欲おやじだぜ

<ファン 聞こえるわよ!>

どうやら少々大きめの呟きだったらしい。知らん顔して俺はタラップをのぼる。


「ははは、出発まで間がありますから部屋でご寛ぎください。また顔を出しますので」
そう残して男は立ち去った。どうやら船内の仕事へと戻ったらしい。


「ところで随分と俺達はお気に入りの客みたいだが」

「そりゃそうよ。都会的美女の来訪なんてここでは滅多にみれないでしょうから。それに豪華クルージングなんて御歳を召した方たちが多いし」

確かに他の客は上品ではあるが、高齢の連中ばかりだ。
まだ若く(連中よりは)上品ではない俺は、肩身が狭く感じ始めていた。

「早いところ部屋に入りましょう。ファンの着替えもしなくちゃね」

「着替え?」

「そうよ船旅にふさわしいカッコウにね」

どうやらあの荷物の中身は、俺もしらない俺の衣装まで詰ってるらしい。

どうでもイイがミッションよりもハードになりそうだ。

ポーターもかねているらしき案内係に通された上層の客室は、四部屋のスィートだった。

贅沢な寝室と大理石の浴室。

それとカウンター付きのリビングダイニングの三部屋が眺望の良い窓付きで、唯一内側のひと部屋がロッカークローゼットと小ぶりのキッチンと通路も兼ねているようだ。

どの部屋にもマルチビジョンとフリッジフリーザとかが無駄についている。

ガーディが浴室内のシャワーブースに入った間、俺の船内着を決めるように言われていた。

しかも昼と夜は別々にだそうだ。

しぶしぶとマルチビジョンから持ち込んだ荷物にアクセスをはじめる。

手荷物のリストから俺用らしい衣装を選び出す。

モニタに並んだ服飾の数にうんざりしながらも、一番楽そうな奴を選ぶ。

さすがに派手な色やとっぴなスタイルはなく、どれも暗めのダークスーツの類ばかりだっが。

ガーディが持ち込んだ荷物つまり、個人用とは思えないほどの莫迦でかいXBOX(物質再構成システム)に、一体どれだけのデータと圧縮数値化された素粒子がつまってるのか気が遠くなりそうだ。

箱のでかさで言えば、特殊重装甲機械化傭兵二名のフル装備分に匹敵するくらいの代物だ。

単なる衣装や日用品に換算すれば三部屋分位の数と質量はあるだろう。

まったく女って奴は気がしれない。

「ファン。選んでくれた?」シャワーブースからガーディが顔を覗かせると、着替えを始めようとして、あらかた脱いじまった俺を、突然に強引にブースに引っ張りこむ。

「駄目よ、着替えはシャワーの後よ」
抱きついてキスをした美女はブースから入れ替わりに出て行った。

残された俺は、全裸でもないのにびしょ濡れだ。

「下着も出しておくわね」甘い声が俺にかかる。

…あたりまえだ まったく やれやれだぜ
濡れねずみの俺は悪態をつくしかなかった。

シャワーブースから出た俺を待ち構えていたのは、小山ほどの衣装だった。

とりあえず部屋着(それでもかしこばっている)をあれやこれや世話をされながら、小山のような胸の美女に着せられる。

首の辺りがむずむずはしたが、特殊任務用の強化装甲のことを思えばまだましだ。

「こうやって着替えれば、リゾート気分も高まるわね」
…これは任務だ これは特殊任務だ
お構いなしのガーディの言葉に、俺はひたすら自分で思い込む。

夕食までの気の遠くなるような時間を、堅苦しい部屋着と絶え間なく続くおしゃべりを相手に俺は戦い続ける。

戦いも終盤、リビングダイニングのマルチビジョンのモニタが展開した。

例のオヤジだ。

『マダム、クルージングは楽しまれてますか?ラウンジでのディナーはどうです?ショウを見ながらの食事も格別ですよ』

「それはイイ考えね。そうするわ」

『そう言って頂けると思いまして、席は用意してございます。御案内の詳細を送りますから』それだけ言ってライブモニタは消えた。

…商売上手なオヤジだぜ 

 請求額はいったいどれほどか 

 もっとも傭兵時代の荒稼ぎで くさるほど蓄えはあるとは思うが

<そうね 大丈夫よ 一年程この船を貸しきるくらい アナタのN口座にあるわ>
どうやら俺の相棒はほんとうに女房と変らないらしい。

例えそんなことが可能でも、シーモンスター辺りと毎日格闘でもしていたほうが気が楽そうなだとは思ったが。

「それじゃあ、ラウンジにいきましょうか、アナタ」更に新しいドレスへと着替え、俺の着替えまでガーディは世話を焼く。


ますます窮屈な格好に、俺は前言を撤回することにした。

…特殊任務用の強化装甲のほうがずっとましだ 

と。


関連記事
スポンサーサイト



総もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛小説
もくじ  3kaku_s_L.png 援交記
総もくじ  3kaku_s_L.png 詩・散文
総もくじ  3kaku_s_L.png ファンタジー 魔導人形シリーズ
総もくじ  3kaku_s_L.png ファンタジー 輝石シリーズ
もくじ  3kaku_s_L.png 遷都物語
もくじ  3kaku_s_L.png ジェノサイダー
もくじ  3kaku_s_L.png ミンストレル
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
もくじ  3kaku_s_L.png 砂(小説)
もくじ  3kaku_s_L.png 小説 終春
もくじ  3kaku_s_L.png カウンセラー
もくじ  3kaku_s_L.png 挨拶
もくじ  3kaku_s_L.png 真夏の幻影
もくじ  3kaku_s_L.png 故郷
もくじ  3kaku_s_L.png 陽炎のように
もくじ  3kaku_s_L.png 魚人の街
もくじ  3kaku_s_L.png プチーツァ
もくじ  3kaku_s_L.png 戦乱の時代
もくじ  3kaku_s_L.png 世界
もくじ  3kaku_s_L.png イケメン彼女
もくじ  3kaku_s_L.png 原罪
もくじ  3kaku_s_L.png 転生
もくじ  3kaku_s_L.png 記憶
もくじ  3kaku_s_L.png 小説  GENZI
もくじ  3kaku_s_L.png ジゴロ
もくじ  3kaku_s_L.png 小説 エセエス
もくじ  3kaku_s_L.png 小説 思い出
もくじ  3kaku_s_L.png 詩人の愛
もくじ  3kaku_s_L.png 小説 ブロガー
もくじ  3kaku_s_L.png 好きなもの
もくじ  3kaku_s_L.png アバーブ
もくじ  3kaku_s_L.png 地上にて
もくじ  3kaku_s_L.png Dragon's woes
【龍の災難  1 (漆黒の邪龍 ダーティードラゴン)】へ  【_】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。
  • 【龍の災難  1 (漆黒の邪龍 ダーティードラゴン)】へ
  • 【_】へ