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龍の災難  1 (漆黒の邪龍 ダーティードラゴン)


スタンドのエントランスから見渡す早朝の景色は、想像を超えていた。

広がるダークグリーンの海原に双子の小さな太陽が昇り始める。

真っ赤な朝焼けは禍々しいほどで、メトロ育ちの俺にとって斬新で驚愕で、かつての傭兵時代のころにも味わったことのないセンスに珍しく言葉も出なかった。

外縁の銀河に位置する惑星ペローダアクアは、かつてのミッションで中型輸送艇での通過時に眺めただけである。

暗黒の空に浮かぶ二連の恒星に照らされた水の珠へと降り立った風景など、思いもつかなかったものだ。


もっともあの時はいつものように、それどころじゃなかったが。


「早いのね、ファング」もと7thのガーディが声をかけてきた。

本日の彼(彼女?)の声は、透き通るようなソプラノだ。


エルフィーである彼女は、周期的にセクシャルトランスフォーメーションを繰り返す。

休暇中の俺にとって、美女の連れは歓迎だ。

例え、他の時期には、いかついマッチョだとしても(しかも、オネエ的なのがなお更溜め息が出ちまうが)。

とにかく今日の彼女は、プラチナブロンドのショートとマリングリーンの瞳がこの光景ににあってる感じだ。


「なんか、凄い光景ね。怖いくらい」ふくよかな胸を押し付けながらガーディが寄り添う。

 …年中この姿なら飽きねぇけどな

俺は思わず心の中で呟いた。

<あら無理よ ファン 私達は繰り返す事でミスティカルパワーを保っているから>

<ふぅ 呟きぐらいさせてくれよ>

<この姿なら 又 貴方に抱かれてもかまわないけど>

「ノーサンクス、勘弁してくれよ」思わず本音が口から洩れちまう。

かつてこの魅惑的なボディーに惑わされた俺は官能的な一夜を過ごしたのだが、目覚めたときには
隣にフォーメーション後の姿があったのだ。


「それも、そうね」どうとったのかわからない返事が、ころころと可愛い声で返る。


「それにしても、素敵な休暇になりそうだわ。長官に感謝しなきゃ」

「あのじいさんのことだから、裏があるかもしれないけどな」

「そんなことより何かお腹にいれない?私はもうぺこぺこだから」

「じゃ、そうするか」

ボックスに向かいながら、少しばかり気がかりなこの間の夜の事を俺は思い出していた。





三週間前   コロニー メトロ


「そこのオニーさん、またれよ」俺らしきものを呼ぶ声がする。

立ち止まると路地裏の片隅のドアが開かれていた。

いかにも胡散臭い雰囲気の小部屋の中にとってつけたような怪しげな老婆の姿があった。

再び歩き始めようとしていた俺に更に老婆が声をかける。

「お前さんの行く末には暗雲が立ち込めておるぞ。」

「おれには、幸運なんて縁がねぇけどな婆さん」俺はそのまま歩みを続けた。

「黒き龍よ、お主の纏っている血なまぐさいサガの事ではない」

その言葉におれは立ち止まっちまった。


「じゃあ、なんだい?」

「龍が羽を休めしとき、災いが湧き上がる。水とおなごに注意するのじゃ、龍の涙を見ることになろうぞ」

「水難と女難?て訳かい、せいぜい気をつけるようにするぜ。サンクス婆さん、御代は幾らなんだ?」

「礼には及ばぬ。くれぐれも気をつけるのじゃ」

それっきり、今の今まで忘れちまっていたが海と美女?まずい並びだな。

泣きを見ないよう注意しねぇと。

 …やれやれだぜ まったく

今回のつぶやきはどうやら、今回は見逃してくれたらしい。

それともそれほど腹がへっているのか。

先に席に着いた絶世の美女は、広がる海をバックにして無邪気におれを呼ぶばかりだった。



ボックスのテーブルに腰を落ち着けると、メニューパネルが浮かんできた。

ガーディのお勧めで、産直らしいシーフードから選ぶことにした。

「この、シーモンスターのリゾットは美味いのか?」

「絶品よ!まだ若いシーモンスターの柔らかい部分だけを使った料理なの。フリットもイケルわ、とくに目玉のね」

「…そう云えば昔メトロでガキの頃、シーモンスターって名前の怪しいメイルオーダーのペットがはやったんだが」

「それよ、それ。同じ物よ」

「うへぇっ、赤い目玉で白い首長の亀の小さい奴」
…思い出しちまった。

「それの若い成獣が、美味なのよ」

「飼っていても、誰の奴も喰えるほどデカクなんなかったぜ」

「多分、環境が合わなかったのね」

「そう云うものか…で、この辺じゃどの位デカクなるんだ?」

「大きい子で、20ヤード位かしら」

「ちょっと、でかいな…」

「だから海の怪物ね、毎年のように漁の最中も事故とかあるらしいから」

そんなたわいない会話の途中で、不意にテーブル脇にフロートウインドが展開をした。

モニタリングされてるのは、長官である。

『やぁ ファングにミス・ガーディ。早い朝飯だな』

…なんだ?休暇の取り消しか?


『他でもない ミス・ガーディ』

「何か?」

…どうやら仕事じゃないらしい

『そのぉ 家内が モニカの奴がシーフードに目がなくてな…』

「あぁ それでね 長官がこんな外縁のペローダアクアを薦めたわけですね」

おれには、意味がわからない。それと、家内?モニカだと?。

『さすがは ガーディ君 いやミス・ガーディ』

「じゃあ ご自宅宛に 見繕ってお送りしますね」

『助かるよ 緊急転送システムのコードはD328C1964で頼む』

「承知しましたわ モニカによろしく」

『ああ』
ウインドは閉じていった。


「おいおい、緊急転送システムなんて軍事用だろ?それに家内とかモニカとか一体…」

「相変わらず、IMCB(生体用個人記憶チップ)をちゃんと確認してないのね」

「先だって長官は、御結婚なされたのよ。しかも30も年下の美人と」

「重要項目以外はみ、ないからな」

「『ドラゴンは忘れない』なんて言われていても、それじゃあね」

「忘れる事ができねぇから、余計な事は覚えないのさ」

「はいはい。冷めないうちに食べましょ」

おれは頷いて、亀野郎のリゾットを口にほおりこむ事にした。

あのジーさんに若い嫁か、帝国も衰退だ{世も末だの意味}。


「意外と美味いな。あんときデカクなりゃ喰っとけばよかったぜ」


「それはいただけないですね」

横から口を挟んだ奴がいる。どうやら店の奴らしい。


「お客様突然口を挟みまして大変失礼致しました。わたくしは、当スタンドのオーナーをしているものです。楽しそうな会話につい口を挟んでしまいまして」

丁寧に詫びが入る。

「構いませんわ。いただけないとは、なんですの?」

ガーディが問いただす。このオヤジの話にどうやら興味を持ったようだ。

「その、昔に通販で売られていたモンスターですが、生まれたては苦味があって食用に適しません。体長が12ヤード位にならないとうまみが乗ってこないので」

「やれやれ、喰わなくて良かったわけだ」

「この惑星の環境に近いモノを用意なされないと育ちが悪いので。モンスターは地元でも未だ養殖に成功していないのですよ。本来は臆病な性格なのですが、この時期だけ繁殖の為に気が高ぶっており、しかも油がのっているので」


「それで、こんなに美味なのね」

「そうです、…マダム」

「なんだと?」

…おいおい、いつからマダムなんだよ


「なにか?」

「こちらの事ですから」

ガーディは否定もせずに話を続ける。おれを無視して。


「マダムどうでしょう、クルージングなど。モンスターのことなら御心配には及びません、大型クルーザーには向かっては来ないので。自分より大きなものには手を出さないと言う事です。もちろん御主人も御一緒に」

「それは、楽しみですわ。それと、船内ではお買い物ができますかしら?」

「それはもちろん。土産物から、新鮮な食材まで当惑星の産物がずらりと用意されております」

「まあ、素敵。是非お願いしたいわ。いいでしょアナタ」

「あぁ…」

もう好きにしてくれとばかりに俺は返事をした。


商売がうまくいったせいか、ニコニコ顔でオーナーとやらのオヤジがさっていく。

…やれやれだぜ

俺は、同じような笑みを浮かべる俺の女房らしい女の顔を見ながらつぶやいていた。






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Posted byフラメント

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