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産みの苦悩と破壊の煩悩 1 (ファンタジー小説  全知全能の使役師 バンズ)


その部屋は視界を覆い尽くすほど広がる大森林を見下ろす丘の上にあったが、突然隆起した岩山とその頂きから噴き上がる噴煙に逆に見下ろされることとなっていた。

「…何か暗いな、それに暑い」

部屋の中に主(あるじ)の声が漏れる。

「これでは書も読めないではないか…」

次々と示される不平に下僕であるヘキサはため息をつくばかりであった。

主と共に住むこの部屋は、広がる大森林を見下ろす景観の良い場所だったのだが、数日前から景色を阻むように巨大な火山が突如出現しており、早めの陰りをこの部屋にもたらしていたのである。

何を今更と云う話であった。


『ルクス・ルナイ』

妖霊であり絶対的な主の下僕であるヘキサの詠唱が唱えられると、薄暗かった部屋の中に冷ややかな月灯りがともった。

うなづいたバンズの様子を見て、正解を導くことができたとヘキサは安堵する。


それにしても主のものぐさにも呆れてしまうと彼女は思った。

誰もが認める全知全能の使役師といった主への賞賛は事実であり、できないことなどない主がたわいもないことすらしないことに不満を募らせてしまうのだ。

主の力をもってすれば、『ルクス・ルナイ』などとゆう魔導を用いなくとも、月そのものを生み出すことさえ可能なのだから。


「全知全能のわしと云えど全て理解しできるわけではない。それとできるからといって些細なことなど出来る事ならやらずに済ませたいのが人の性と云うものだ」

いきなり思考を読まれそれについて文句を言われたことにヘキサは驚いた。

それに創造主にも等しき主の口から人などと言われても…そんな思いを浮かべるヘキサ。

「そんな些細なことのためにお前がいるのだ、それに理も知らず物を生み出しても、別な物が現れるだけなのだ。疑問に思うならお前がやってみれば良い」

主にそう告げられ試しに月の創造を試みるヘキサ。

自身の力量を思えば仮初のものしか生み出せないであろうとわかってはいたのだが。


『万物の糧となる真素よ 我の元へと集い 我が願いを聞き届き叶え 生まれでよ、ルーナ』

定番の創造の詠唱を唱え対象を告げると、冷たく輝く違う何かが外の空に生まれる。

明らかにそれは月とは呼べぬ物であった。

「…わたくしめの力では及ばないようですね」

やはりといった面持ちで言葉を漏らすヘキサ。

「それは違う。わしがやってもそれでは同じ事、真の理を唱えなければ同じものなど作れぬ、…『去れ』」

そう言ってバンズは生み出されたものを一言で消しさってしまう。


「生み出すより壊すことのほうがやはり簡単ではあるがな」そう言い足して。


「だが、理がわかれば創造も可能だ」


『浮気な夜を見張しその連れ添いよ 終始付きまとい嫉妬に乱れし夜の連れ添いよ 我が命令に基づき その姿を此処に示せ』

創造の魔導とは似ても似つかぬ言霊によって生み出されたそれは、見紛うことのない月そのものであった。


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Posted byフラメント

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