釈明   (トレデキム  漆黒の邪龍 ダーティードラゴン)


「どうかしたのか?」

会話をとめ自分に向けられていた視線が、わずかに揺らぐのを感じたファングはそう問いただした。

「よく見ているな…パーソナル、そう個別的私的事項だよ。リーイクスイクスからの正式な面会の要望だ」

「LXX?」

「そうだ、先ほどの報復についてのことだろう。このメトロのシステムへの介入に対する弁解のね。なに、大したことじゃない昨日からの別件での介入、こちらは断りもあったのだが…先ほどのリーエクスエクスからと思われるシステムデータの無断解析に少々腹が立って逆に侵入しメインへダメージを与えたものだから」

「物騒な話だな」そうファングは告げた。

「まあ、それは建前で、最近此処に越してきた美麗なトップの顔を見てみようと思い立ったからなのだが…」


「それだけのために、そんなことをしちまうあんたは物騒な奴なんだな」

「その程度で揺らぐほどやわじゃないのは、君も承知しているだろう?」

「………」沈黙での肯定をファングが示す。



「釈明の機会を頂き、感謝致します…プロフェッサー」

「その呼び方は頂けないな、私のことはトレデキムと呼びたまえ」

「訂正いたします。トレデキム様」

「私は彼の人と同類ではあるが君らの直接の上司でもなんでもない。様付は不適当と思うのだが…まあ良い」

あたふたと駆け寄り目の前の男に頭を下げ続けるよく知る二人組をファングは見ていた。


「この度はトレデキム様に対して、LXXとして敵対の意思はなく、手続き上の不備による不幸な事故と申し上げたいのですが」

「ならばシステムからの自動的返答も、事故として処理してくれると云う認識で良いのかな?」

「それで構いません」

受け答えを続ける一人が、自分の姿を見て微かに動揺したのをファングは見逃さなかった。


「ところでこんな場に俺がいて良いものだろうか?」ファングが口を挟む。

「構わないだろう。知らぬ中ではないだろうし。…それはそれとして、事件の経緯を知りたいのだが」

「では、直接の介入を行った部下から説明させます」

急に振られた後ろの男が、伏せていた顔をあげ説明を始める。

「システムへのパスは通っていたので…そのお…残留データを解析する程度のことは…了承されるかと…」

「報復される可能性は考慮できなかったのかね?君なら推測できたと思うが」

「…はい、その可能性は低確率でありましたが…直接の上司の命令と申しますか…懇願がありまして…」


「その問題の上司とやらの姿が見えないのだが…」

わざとらしくあたりを見回す男。

「ただいま呼びます!すぐにでも」

一連の茶番劇を退屈そうにファングは見守っている。


その時、男に釈明を続ける人物に変化が訪れた。

「えっ?ここは?…あっ、ファン!…じゃなくて、プロ…トレデキム様ですね」

不意に人格が変わった女性を、連れ立った男が肘で突く。

「一連の事件に対し君が命令したと言う事なのだが、どうなのかね?」

「あっはい、そうなります。ごめんなさい」

「そうか、許そう。このことは無かったこととしLXXのメイン復旧に対して私の方からも手を貸そう」

「あ…ありがとうございます。穏便なる処置に対して私からも感謝を述べます…あっ」


その言葉を告げると頭を下げた人物は、先ほどの雰囲気を取り戻していた。

「これで宜しいでしょうか?今回の出来事は互いに不幸な事ではありましたが、解決へと導いて頂き感謝致します。貴重な時間を費やして頂いたことを改めてお礼申し上げます。では、これで」

そう言って再び人格を戻したのであろう人物が去ろうとすると、目の前の男が呼び止める。

「時間があるのなら、先ほどの女性を残してはくれないかね」


「承知いたしました」

歩き始めた人物は立ち止まり振り向くと、ファングたちに向かって小走りをはじめたのであった。


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