夏の夢  (小説 ベイサイドペイン)


夕暮れの港に船が繋がれている。

むっとした海の風がことさら夏を知らしめす。

寂れた田舎の港町はいつもの静けさが嘘のように、多くの人息で蒸れていた。


「久しぶりで楽しみだねカズちゃん」

見知った声がボクを見つめる。

この港町に根付いてしまってから幾度目の夏だろうか。

ボクは港が見えるはずのあの窓辺の部屋から連れ出され、港の前で座り込むことになっていた。

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「このお船があると、上手くみえないかなあ…花火」

「ああ、でも端っこだけでもいいんじゃないかな見えれば」

妙にはしゃいでいるヒトミに、どうでもいいよとばかりにボクは応える。


「花火だから高くまで上がって見えるよね」

テコでももう動かないだろうボクを思い、ヒトミの返事がかえる。

実際に人混みが苦手なボクが、わざわざ部屋から出てこんなところまで花火見物に出向いた事さえも我ながら奇跡に近いと思う。

近くに開かれたで店でのビールをヒトミから受け取ったボクは、ただ闇にと変わりゆく空を眺め海の香りだけを感じていた。


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「あっ、あがったよカズちゃん」

ヒトミが嬉しそうに声を上げる。


上がり始めた色とりどりの花を目にして、ボクは花火についての苦い思い出をなんとなく思い出していた。

今思えばなんでもない。

大きく開き腹に響く花火の音も驚きはするが、それだけだ。

区切り区切りで上がる尺玉にいちいち騒ぐヒトミを眺めボクはそう思い直す。



幼い頃、花火の大きな音に怯え祭りの屋台の下に潜り込んでしまったことは、確かにやな思い出だ。

それを事あるごとに何年も繰り返す親戚連中に更に嫌な思いをしたものだった。

こんなことをヒトミに話したらどう思うだろう。

あまり感情も出さず全てに白けているボクが、泣き虫だったなんて。

次々と開いては散るその姿は、綺麗と思うより儚く哀れで虚しい想いばかり募らせる。

夏の世の夢、儚いひととき、そんな思いが哀れで惨めで共感してしまい、ボク自身が儚く取るに足らない存在に思え寂しさを感じる。


そんな想いを振り払うかのように隣の温もりを引き寄せ抱きしめると、大丈夫だよとばかりにボクに微笑みを向ける。

「来年も再来年もこうして一緒に花火が見れるといいね」

そんな言葉に返事さえ出来ずにボクは黙って一緒に消えゆく花を見つめるばかりだった。

このひとときが夢で消えないようにそんな思いにかられながら。

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