伝説の魔道士と全知全能の石 古の海獣王


─ 二日後 バランナ海 海上 ─


季節柄、穏かな偏南風にのって、大陸の商船DD号の航海はつづいていた。

高く上った太陽が見下ろす船の一室で二人の男が内密な話を今日も続けている。

「…そろそろだな」重く低い声が話を断ち切る。

司祭の声に船長が問いただす。

「いきなり何のことですかい?司祭様」

アーク卿の低い声の変わりに、船内に張り巡らされている通話管が鳴り響いた。

『船長!右舷前方に島を発見!例の奴です!』

「と、ゆうことだ」

アーク卿はいかにもとゆう顔つきでこたえた。


「…それにしても、はやくついちまったもんだ」

思うより早くたどり着いたことに驚きを交えて船長がつぶやいた。

「何、彷徨える魂の呻きに導かれての航海だからな」

「彷徨える魂ですかい…大海に散っていた奴らの案内なんざぞっとしますがね」

然も、恐ろしげに船長がこたえる。


「死せる魂はたとえ彷徨っていても、生を無駄に過ごしている輩どもよりは親切なモノなのだよ。彼らは実に冷ややかに控えめで、物静かで素直なのだから」

愛でるような眼差しで静かく言葉がもれる。

「また、そんな見てきた様なことを」

半分引きつった笑いで船長は司祭に問いかけてみた。


「みる?感じるがふさわしき言葉だな。現にそなたの背後にもひとり、そなたと同じ顔の男が」

ぎろりと睨んだ眼が怪しく光る。

「…怖い事は言わないでくださいな、や、奴はもうとうに海の藻屑に…」

目線をそらし震える言葉をかえす。


「魂はそなたと共にあるということだ。彷徨うてるわけではなく、そなたを守るため」

「そんな…奴を見殺したも同然なあっしに…」

船長の言葉は途中で塞がれた。

通話管の第二報めが響いたからである。


『野郎ども、緊急停止だ!碇を!!船長、これ以上はやばいようです、船底を触る岩が増えてきちまって』

『ああ、わかった。全員配置についたまま待機!おって指示を出す』

船長は鳴り響く通話管に激をとばした。

「司祭様、如何いたしましょう?」
「何、この先も導きどおり進めばよい事、海底の岩に囚われたままの嘆く魂の呻きにな」

こまる様子もなくアーク卿の言葉が淡々と部屋に流れ落ちた。


「………、彷徨えるイースレスよ我が招きに応えよ」

不聞なつぶやきの後のアークの言葉に応えるかのように、船が大きく揺れた。

「司祭様!」

「案ずるな、死せる海獣の王の単なる返答だ。かの者の導きがあれば上陸など容易いことだ」

大きく手繰り寄せられる衝撃と、船体が圧迫されるような不気味な軋みが鳴る。

不可視の巨大な何かに絡め取られた船は、碇さえも引きちぎり引きずられるように海原を進み前方の切り立った壁にとひたすらに向かう。

近づくばかりのその絶望に恐怖した船長が声を上げた。

「座礁は免れてもこのまんまじゃ、壁にあたっちまう」

「心配は無用だ、クラークの奴はマーリスの配下の頃から粗暴ではあったが…」

「それにしてもこんな勢いじゃ船がもたねえ」

絡め取るその力と勢いよく引きずられる船は、白く波を切り立たせ軋みながら進んでゆく。

アークの若干の戸惑いと船長の諦めの中、船はその姿を波に沈めることなく切り立った壁にぽっかりと空いた入口のような穴にと吸い込まれることとなった。


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