世界

物言わぬ骸 (ファンタジー小説 世界 6)

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「君のいた世界、そして世界の本当の姿。戻りたくはないかね、知りたくはないかね。真実を」

そう言ったあと男は、何処に隠し持っていたのだろうか短いナイフのようなもので自らの胸を差し貫いた。

その突然な行動に驚いたボクは、思わず駆け寄りその深々と刺さったナイフに手をかける。

「…思ったより苦しいものだな…できればぬいてくれないか…そうすれば…」

言われた通りにボクはそれを引き抜いた。

大量の血が吹き出ることとなったが、その顔には笑みさえも浮かんでいるように思えた。

広がる血溜りをボクはただ見つめる。

ぼんやりとした記憶の中に、こんな光景を何度も見たような気がして。



どのくらいの時間が経ったのだろう、寝台の血溜りもそれ以上は広がらないようだった。

幾つもの疑問を残し勝手に逝ってしまった男の言葉の数々が浮かび巡る。

それは、何か答えがありそうで未だ霞がかかったままの渦のように感じられる。


「…とにかく此処から何とかして出なきゃな」

考えと行動をまとめようと、思ったことが言葉に出る。


「…先ずはそれからだね」

再びかけられた主無き言葉に目を見張ってしまう。

あちこち見回してみても、無論狭い牢屋内に他に誰ひとりいるわけではなく、あるのは寝台の上で血溜りに浸かる物言わぬはずの骸だけだった。

「ああ、其処じゃない、その骸は見た通りのものだ。私は此処だ。私はモンドであり、そして君自身でもあるのだよ、クルア」

声は耳ではなく、ましてや動かぬ骸からでもなく自らの中に響いていたのだった。




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