体内虫 4 (小説 よろず何でも相談社)

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Byフラメント

「沢田君、きみ、話を聞いておるのかね?」

社長である伊之助の言葉に私は我に返った。

「あの最初の男に専門意見を聞かせるために、手苦君の処に連絡を入れたまえ」

「………はい」

「早急にだよ」

「!はい、ただいま」

訝しげな表情が顔に出てしまったのだろうか、伊之助の声がひときわ大きくなった。

思わず顔に出たのは、伊之助の帝大時代の学友と称するあの如何わしい男が、私はどうしても好きになれなかったからである。

ジロジロと舐めまわすような視線を放ち、ねっとりと小声で喋るあの男を私は生理的に受け付けなかった。

聞いたこともない多数の分野で博士号を所持との自称にも、胡散臭さが匂い立つ。

そんな思いにかられながらも社長命令には背けずに、渋々と連絡を取る。

「はいぃ、手苦世紀末研究所ですぅ」

電話口の声は、忘れたくても後味が残る、手苦伍一教授本人のものだった。

「…すいません、わたくしよろず何でも…」

「ああその声はぁ、伊之助くんの処のこだねぇ、相変わらず艶っぽい声でぇ」

「!…」

私はしばしの間絶句してしまった。背中を走った悪寒のせいである。

「ゆりこ君といったかなぁ、っくっく」

「…あっ、はい………」言葉が続かない。

「ボクに頼みでもぉ?」

耐え切れないと思い、伊之助に受話器を渡す。

しぶしぶ受け取った伊之助が話を続ける。面倒がった割には、会話が弾んでるようだ。

「…では、よろしくお願いしたい」

どうやら話がようやく終わったようである。

「今週中に先程のあの男と逢って、来週には結果を持ち込んでくれるそうだ」

伊之助の言葉にぴんとこなかった私は不容易にも聴き直してしまう。

「来週?何ですか?」

「やはり血の巡りが悪いようだね、虫に決まってるだろう、あの男の体内から虫を引きずり出し、教授自ら此処に持ってくるそうだ」

私は吐き気ばかりか目眩がするのを止められなかった。


翌週、朝から気分のすぐれない私は出勤後も憂鬱さにまとわり続かれていた。

お決まりの掃除も書類の整理も何か引っかかるものがあり思うようにはかどらない。

そんな朝が昼にと変わる頃、聞きたくはなかった声がドアの向こうからした。

「こんにちわぁ」

元凶が訪れたのである。


小さな風呂敷包を抱えたあの男が、乱杭歯を覗かせてにたりと笑いながらドアをくぐる。

「ゆりこ君…伊之助くんはぁ、いるのかなぁ?約束の品をぉ…こうして持参したのだけれどぉ」

嫌らしく間延びした独特のねっとりした声が更に悪寒を呼ぶ。

「社長でしたら、奥に」

「よかったらぁ…君にも見せてあげようかぁ」

「社長の許可があればですけど」

そのねばねばさを打ち消すように無表情に応えた。

それに臆することもなく男は粘つく余韻をべっとりと残し、奥の部屋へと消えてゆく。


やはり今日は欠勤すればよかったと思い悩んでいるところに伊之助の声が残酷に響く。

「沢田君、ちょっときたまえ!」

「…はい」

それでもなんとか返事を返せた私は、欠勤しなかったことを何度も後悔していた。




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