よろず何でも相談社

体内虫 2 (小説 よろず何でも相談社)

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今朝は年明けの仕事始めとあっていつもより早めに出勤したのだが、早朝にもかかわらず會社である雑居ビルデングの室の扉には、相談のお客であろうか一人の男が待ち構えていた。

慌てて鍵を開け部屋の片隅に設けてある待合の席へと案内をし取り敢えず茶を差し上げて、しばらく待てば相談を受ける者が参るとだけ告げ、休みの間に溜まっていた新聞や手紙の類を整理し始めることにした。

整理のあと簡単に掃除をしようと思いつき廊下に出て入口を吹き始めた頃に、相談者で社長でもある伊之助がいつもどおり出社をしてきたのだった。

来客を告げるとわかったとばかりにうなづきそそくさと中に入ってゆく伊之助。

その姿を見送りながら入口を拭いていたのだが、その合間にも他の客が訪れたので、掃除は諦めて中に入り待ち人のもてなしや、依頼の記帳などの秘書の仕事を始めることになった訳っだのだが。

中では相談を受けているらしい伊之助の大きな声が相談と受付を隔てる衝立の奥から響いている。

「それで君は、そのまま演習を続けたとゆうのかね?誤射で打ち抜かれた脚を抱えながら」

「ええ、撃たれた脚からはむろん血は流れ続けていたのですが、先ほどの話のように痛みもなく、むしろ高揚感や妙に興奮したものが湧き上がりまして…」

淡々と語る男の声は妙に抑揚が感じられなかった。

「それは実に面妖だ、面妖な事だよ君!実際のところ今はどうなのかね、うん?」

それに比べ伊之助の話声はいつもどおり大仰で大きなものだとつくづく思っていた。

「後日、医者には行き看てはもらったものの…痛みがないことを告げると非常に訝しんで…」

「ふむふむ、それはそうだろうな!そうに違いない!」

「そのうちに…頭の検査とか言い出したのでそれでそれからは…」

男の声はとぎれとぎれで歯切れも悪い。

「なるほどなるほど、頭の悪い医者と云う輩の言いそうなことですな、何かにつけてやれ頭の中の疾患とか流行りのように言いがかりをつける!」

「で?それからずっと…そうなのかね」

「ええ、まあ」

暫しの静寂が続いた。

「沢田君!、年末に押収した串を出してきたまえ」

しばらく思案をしてい社長が、不意にこちらに声をかけてきた。

「はい、あの鉄串でよろしいのでしょうか?」

一応間間違いがあると面倒なので聞きなおす私。

「あの時の事件の串といえばそれしかないだろう、早くしたまえ」

「はい、すいません、直ちに」

慌てて流しへと向かい、棚においてあるはずの其れを探し回ってみる。

ほかしたままの見つけた其れを手渡すと、私の見ている前で男に手を差し出すように告げた伊之助が、おもむろに男の手のひらにとずぶりと突き立てた。

「しゃっ、社長!」

驚きで叫んでしまった私。

「大丈夫ですよ、ご心配なくお嬢さん」

青い顔をして大声を上げてしまった私に済まなそうに男が答える。

そんな問答は位にも介さないで社長が問いかけた。

「手のひらを突き破った感覚はあるのかね?」

「ええ、感覚が麻痺してるわけではないのでそれはあります。皮膚が突き破られ冷たいものが肉に筋に刺さってゆく感じはします。その冷たいものと対照的に温かいものが湧き出て流れ出る、多分この流れ出て止まることのない血のことだと思うのですが、確かに感覚だけはあります」

「先程の話のように、高揚感はあるのかね」


「…本当の気持ちを言えば、このままぐりぐりと抉ってもらいたいと」

「こんな感じかね」

手のひらを貫通してる串を容赦なく動かされ傷口がグチュグチュに成っていくさまと、愉悦を受かべて嬉しそうにそれを見つめる男の表情に、私は吐き気をこらえることができなかった。


「わしの見るところでも、だいぶ症状が重く見受けられる、ひとつ専門家の意見を聞いて貰うことにしよう」

「このままでは、まずいですかね?」

「ん?いくら悪くなくても、いや…良くても…命あってのことだろう手遅れにならないうちに…」

「沢田君、依頼名簿に連絡先を書いてもらうよう渡したまえ」

伊之助の言葉に口を塞ぎながら男に名簿を手渡す。

連絡先を書き入れ手渡された名簿は、ところどころ血のあとで汚れ、それを手にしたまま手洗いへ駆け込んだ私は、出勤前に食べていた物が全てなくなるまで吐き戻してしまっていた。

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