もとの世界


「裕未、どうかしたの?」

夫の心配そうな声で、ゆみは我にかえった。

「ごめんなさいあなた、何でもないの」慌てて夫に返事をする。

「なにか不安や悩みがあるなら、何でもいってくれればいいよ。僕はすぐにでも改めるからね」

「ありがとうあなた、少し風邪気味で熱っぽいだけだから」

夫の優しい心遣いに何とか笑みをつくって、ゆみは応える。

「それは大変だ。後片付けは僕がするから、君は先に休んでくれていいよ」

いつもながらの優しい言葉にゆみは、にっこりと笑みを返す。


何故だろうとゆみは思う。

自分には申し分のない夫。

頼みごとは断らない、いつも穏やかに優しく自分に気遣ってくれる。

滅多に怒らない夫に何の不満があるのだろう。

自分は欲張りなのだろうか、そんな夫に対し物足り差を感じてしまう自分はアノヒトの言うとおりの女性なのだろうか。

アノヒトとの事を思い出していながら、嘘などつき更に甘えてしまう自分に驚きと戸惑いを覚えながら寝室に向かう。

もちろん寝れるはずもなく、またアノヒトとの事を思い出し、身体が風邪とは別の熱っぽさに包まれてしまうのをゆみは感じていた。

いたぶるだけいたぶって、由美の事を抱くまではしてくれなかったアノヒトとのひと時の事を鮮明に思い返しながら。



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