「恋愛小説」
蒼き日々の情景(私小説)

大人に (私小説 蒼き日々の情景)

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「あっ、…カズちゃんって…いつも何も喋らないわね、ああっ」

喘ぎ声の合間にえーこの問い掛けが混ざる。

「………」

聞こえなかったように無言のまま和也はコトをすませた。

えーこの身体から身体を離し備え付けの粗末なベッドに腰掛けて辺りをみまわしていると、真っ赤なツメがタバコを差し出してくれた。

「マルボロだったよね?」

「ああ」

今度は素直に答えながら、同じく差し出されたライターで火をつけた。

白い煙が狭い部屋に沈黙をともない漂いはじめる。


「でもさぁ、カズちゃんまだ十九でしょ?あんまり…」

覗き込む顔は本気でしんぱいしてるのか、若い和也にははんべつができなかった。

「二十歳になった…」

「えっ?いつ?」

「一昨日…」


「前回のときにでも、教えてくれれば良かったのに、なんかプレゼントでもカズちゃんにって…」

驚きの声の後、吸いかけのタバコを口にした女は残念そうに声を漏らした。


「だから来たんだ此処に、お祝いで…」

「お店に?お店なの?だれでも良いわけ?あけみちゃんとかぁ?」

えーこは意地悪く微笑んで、再び和也の顔をみつめてくる。

「あけみさんは…もういいよ」

「…えーこさんに、会いに来たんだ…祝ってもらいたかったから」

「ありがとカズちゃん、そしておめでとう。 これで大人の仲間入りだね♪」

和也は柄になく照れたのだろう、そっぽをむいて黙っているだけだった。


ここは場末の風俗店の一室。

そしてお相手のえーこは泡姫だった。

和也より一回りほど年上のえーこは姫と呼ぶには年がいっていたが、笑い顔はとてもかわいい女性であった。

同じ店の同僚でアル中ぎみのあけみとは、年上と思えないほど童顔でもある。


次にお店に来てくれたときには必ずプレゼントを用意してるわなどのたわいない問答をつづけていると、時間を告げる連絡がインターホンで鳴ってきた。

「はい、わかりました。時間ですね」

えーこがインターホン越しに答えている。

「そろそろお時間ですので。お客様、お願い致します」

口調を改めたえーこに、いつものようにサービス料を和也は差し出した。

すると、えーこはそのままいつものように返してよこす。

「………」

「今日は、わたしのおごりでいいから。」

無言で受け取る和也に、えーこは笑顔でそう告げた。

「うんわかったよ、いつもありがとう。えーこさん」


「えーこでいいから、ねっ?またきてねカズちゃん。お給料が入ったときでいいから」

「…わっかた」

「じゃ、行こうね?」

いくつもある部屋を通り過ぎ、狭いエレベーターに同伴し店の出口までえーこが先導してゆく。

和也を出口まで送ったえーこは、小さく手を振ってから深々とおじぎをした。

背中越しにわずかにうなづいた和也は、待っていたタクシーにのりこんでいく。


タクシーは三十分ほど十七号を走ると、和也の寝泊りする店の寮へと到着した。

寮といっても小さなマンションの一室で、マンションまるごと勤め先の会社の所有物である。

店はそこのテナントのひとつで、他にもニ・三件の店が並んでいる。

マンションの一階の、寮として振り分けられてる部屋のひとつに和也は入っていった。

本棚ひとつとベッドだけの殺風景な和也の部屋にはテレビがない。


人嫌いな和也にとってテレビの中の人声ですら、いらだちを伴うからであった。

冷え切ったベッドに転がり込み、傍らの文庫本を手に取るとおもむろに続きを読み始める和也。

和也は週末や休日は外にも出ず、もっぱら読書などですごす事が多かった。

…明日は久しぶりに街まで出ようかな?

と、和也はふと思った。

起き上がり冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、寝転びながら缶をあけて飲み始める。

飲みながらの読書のせいか、いつしか今夜も眠りに落ちてゆく和也であった。


私小説と言いましても エピソード一つ一つがそうだけであって 

惚れられた??のは こんないい子ではなかったです


何年も前に書いたものなので 少し書き直しました

アノ時に 無言なのは 若い頃からなんだなと 

書いた当時の自らの思いが蘇ります


素人相手のエンコウがまかり通る今では

風俗関係のお店は 閑古鳥が鳴いているようで

懐かしい風情をかろうじて残していたこの時代が

懐かしくも寂しくも思い出されます


和也
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