「ファンタジー 輝石シリーズ」
輝石物語

新たなる争い 5 (小説 輝石物語)

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「カル、まずは城下にでもゆこうかの」

少女が傍らの農夫にそう述べた。

「今更、城なんかに出向いてどうするんだルナン?」

農夫の答えは気が向かないものであった。

「王に謁見するのじゃよ」

「でもよ、あの小僧はとっくに死んじまってるんだろ?」

「ああそうとも、今は十八代目聖女王ポリテラーナが統治しておる」

「おんな?女王なのか?おんなが国を治めてるのか?」

「ああ、主もよく知ってる男が後ろ盾でな」

それだけ答えると少女は鳥の姿にと戻り、暮れ始めた空へと農夫を残し飛び立ってしまった。

「腐れ魔女には用などないが、よく知ってる野郎については気にはなる…仕方ねえ騙されたと思って付き合うことにするか」

そう独りつぶやいた農夫は、らしからぬ速さで暮れゆく地平線めざして矢のように駆け出した。


遥か彼方の城下町に一羽と一人がついた頃にはとっぷりと日も暮れて、町を取り囲む強固な石壁も硬く入り口の扉を閉ざしていた。

長身である彼の倍はあろうかと思われる壁を見上げた農夫は、傍らの小柄な少女に問いただす。

「この苔むした石の壁を乗り越えるのはさすがに骨が折れるんじゃねえのか?てめえみたいに羽でも生やさねえと」

「そうじゃな、主が飛べる程の羽を生やすのは時がかかりそうじゃ、新しい扉でも作ろうかの」

そう言った少女が石壁に手をあてる。

四角く紫の輝きに包まれた壁の一部が、ぽっかりと空き中へと通じる道となった。


「…猫が一匹、まあほっとけばいいじゃろう」

農夫が通るには少しばかり低いその四角い穴を、背を押し中へと促した少女は聞き取れぬ程の小声でそう呟いた。


「まずは宿にでも向かおうかの」

今度は少女が先にたって歩き出す。

城下町とゆうこともあるのだろうか、この時間に不用意に暗がりに出歩く者もなく、整備された石畳の道は閑散としていた。

「宿なんて用がねえだろう?さっさと女王に合わせろよ」

農夫が文句を言う。

「争いの最中ではないのじゃぞ、ここは大国でそれなりの準備も必要じゃ。高貴なる女性に会うには湯船にでも浸かり身なりも正さぬとな」

農夫の薄汚れた衣服をつかみ、顔をしかめて少女が応えた。

「湯船なんてまっぴらゴメンだ」

「そう言うな、これから向かうノーマンの宿では酒もたらふく呑めるのじゃぞ」

「ノーマン?あの置き去りのノーマンか?」

驚いた口調の農夫。


「そうじゃ同じように…古の神々に置き去りにされた時に呪われた男じゃよ」

「まさか、あいつが後ろ盾なのか?」

「そのような訳があるはずはなかろうて、今では気の良い宿の亭主じゃよ」

笑いながら少女は言った。

「…姿なきアサシン、不死の戦士も変わるものだぜ」

「平和が長く続いておるからの、会っておけばいずれ役立つことにもなるじゃろう」

意味ありげに農夫を見上げる少女。

「いずれねえ…」

珍しく考え込む農夫。

「主の覚醒も既におきたことじゃから…」

「まあ、なんでもいいぜ、湯船はともかく旨い酒があればな」

「ああそれは間違いはないがの酒の方はの」

もうすっかりと暗くなった石の道を喋りながら歩く二人連れを一匹の猫が無言で見送っていた。



「猊下、見張りからの連絡によりますと、鼠が二匹城下に紛れ込んできたようです」

宮廷内の枢機卿の寝室に一匹の猫がふらりと現れ、その猫とは言えないほど大型の黒い影がこう告げた。

「鳥とツルギか…」

話す猫に驚くこともなく、リンクス枢機卿が応える。

「一人は仰せ通りの姿でしたが、もうひとりは農夫のようで」

「見かけに惑わされてはならぬ、禍々しき本性は隠しきれなかったであろう」

「仰るとおりであります、もう一人の片割れから農夫とは思えぬ程の異様さを感じたとのこと」

「ご苦労、夜が明けたら陛下に謁見を求めることとする、引き続き鼠の動きに目を光らせておくのだ」

「ははー」

音もなく猫は姿を消す。

「ついに来たか…」

枢機卿は光見えぬ瞳で、何かを見つめるかのようにそう呟いた。



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