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引きこもりのボクに荷物が届いたのは夕刻を過ぎた頃だった。

いつものようにドアの前に置かれた食事と一緒にそれは並べられていた。

ダンボールにと梱包されたそれは、大手通販Web会社の黒いロゴが印刷されている。

ふとしたきっかけで見つけたその怪しげなサイトの商品はその驚愕の内容とは裏腹に安価なもので何よりも収入が少ないボクにとって手の届く範囲であり、常時使用しているネット上の通販会社でも取り扱っていたことも購入する動機のひとつになった。


怪しげなサイトとは、こうそく社com。

引きこもりのボクが、なにも拘束つまりSMに興味があったわけではなく、ネットでの高速回線に興味があったための検索の結果だ。

通販会社とだけ説明のあったそのサイトを閲覧し直ぐに戻らなかったのは、正直心の奥底でそんな行為に興味があったのかもしれないけれど。


エロゲー風なバックに商品のカタログ写真だけが羅列したそのサイトは、いかにもエロサイトの広告にあるようなSMショップらしきものでトップには、月並みなアダルトグッズの一覧の上に期間限定の特売品の中にどうみても桁まちがいのような品がでかでかと表示されていた。




ラバーズ10セット1500円

完全拘束 これ一枚被せるだけで意のままに

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黒いゴム製らしきマスクの写真とこんな文字が乗っている広告の下に大手通販より購入可能の文字がある。

ボクはその安さのあまり、いつものラノベの購入の感覚でそのボタンをクリックしていた。

勿論ネット通販ならではの期待半分はずれ半分で。





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置かれていた味気ないダンボールは予想通りに嵩張るものだった。

開封すれば箱の底に貼り付けられた台紙がわりのダンボールに商品と明細書の紙切れがいつものようにビニールでラップされている。

明細書に記載されているものはメールのものと同じなので読むこともなくとりあえず品物をチェックすることにした。


ビニールを開封するとゴム製品特有の香りがする。

色は黒、形は変哲もない四角だ。

丁度手足にまくサポーターのような感じだろうか。


薄手で大きさとしては顔にもすっぽりと被せられそうだが、サイトの画像イメージとは随分違う。

サイトには顔に被せるようなマスク状のものだった気がしたんだけど。


とにかく枚数の確認と伸縮性などを纏めて手に取って試していたら、不意に違和感を感じた。


なんと言えばいいのだろう普段にもまして感覚が増してるような…。

指先の触感が伝えるもの、それがましているような…。


手触り薄さ弾力性、どれもが緻密に明確に伝わる、その感覚の不自然な強まりにボクは思わず持っていたものを落としてしまった。

落とした拍子に間に挟まっていたらしき紙切れが顔をのぞかせる。


注意事項と明記されたその紙の冒頭には、直接素手で触らないよう手袋などを使用と書かれていた。






悪用厳禁と書かれていたその注意書きには、この品の驚くべき効用が示されている。




使用に関しての注意事項

直接に触れないでください
 表面は 神経を過敏にする作用があります
 裏面は 神経を麻痺させる作用があります

頭部に裏面を接触した場合 
 運動障害や感覚障害をおこします

頭部に表面を接触した場合
 運動能力の向上や感覚の鋭敏化をもたらします
※ただし 身体に負荷がかかります

以上を踏まえたうえ 取り扱いにはご注意ください




これが本当ならば凄いとボクは思ってしまった。

実際に直接手に触れたあの感覚からすれば、ある程度の効果はあるのだろう。


自身で試すことができればいいのだけれど、仮にすっぽりと被ってしまったら…。

そのまま自分で脱ぐこともできなくなってしまったらとの思いから、それはどうしてもできなかった。


暫しの思案の後、家のペットである亀に試してみようとボクは思ったのだった。

そんな考えに取り付かれてしまったのは、ボクの持っていた歪みのせいだったかもしれないのだけど。



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結果的には亀は失敗だった。

亀の甲羅に感覚があるかどうかは知らないが、もともと緩慢な動きしかしないものが、じっと動きを止めたとはいえ、それがこのマスク?の影響かは判別がしにくい。


意を決してボクは、自身に使用することにした。

どれほどの影響を与えるかがわからないため、すっぽりとそれを被る愚行はやめ、裏の一部を額にあてることで試したのだ。

念入りに手袋を重ねマスクを裏返しにする。

それをハンカチのように畳んで、自らの額に押し当てる。


もし被った場合に、まかりまちがって意識がそのままなくなるなどの最悪の結果をさけるためだった。


恐る恐る折り畳められたそれを額に押し当てる何かあった場合にうつむき加減に顔を伏せ、そっと押し当てる。

すぐさま意識が薄らいでゆく、心なしか手足の感覚も鈍くなり、遠のく思考の中、必死で最大の意識で額に押し当てていたものを落とす。

危なかった。

手足の硬直、思考の混濁、意識の喪失、…これは危険すぎる。

だが、この症状こそ、このマスクが完璧なる拘束をなすものだと確信する。

では、裏側?はどうなのだろう…。

感覚の鋭敏化、思考の加速、意識の拡大、そんなところだろうか。

はやる気持ちを抑えきれず、ボクは思いついたことを実行するのであった。


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ともかくこのマスクが生き物に干渉することを実証したかったボクは、引きこもり故に数が少ない対象物から選んで実験することにした。

そのためのモノを通販で新たに買い求め実行へとする。

流石にいつもの通販サイトでは購入できなかったが、別の専門サイトでの購入だ。

届いたそれを片手に獲物が近づくのをまち声をかける。

便宜上呼びかけに使うその言葉を。


「…母さん少しお願いがあるんだけど」

不審げな顔つきでそれが近づいたところを購入したスタンガンを押し当て計画通りに自由を奪う。

用意しておいたマスクを手袋をし裏表をまちがえないように頭部に被せる。



そして行動が再開されるのをまってボクは改めてそれに問いかけた。

「気がついたなら返事をしてみろ」

ボクの問いかけに戻ってきた言葉は、常にヒステリックなそれからは想像もつかないような「…はい」といった無感情で今まで聞いたこともないそんな素直な返事であった。


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