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「ボクは君が欲しいとと思っている…。言葉通りに君を抱きたいのだけれど…」


結局私はこのひとを受け入れてしまった。

そう、その要望どおりの言葉どおりに。


特に言うほど変わってもいなかった行為のあと、特に言うほど冷たくもなかったその手は、この人が持つ不安だろうか?そんないくつも抱え込んでいるらしいものから逃れるように、背後から私の決して厚くもない胸を掴んでいる。

まるで私と云う存在に縋るように。

互いを曝け出したベッドの上で、一枚の薄い毛布をおざなりにかけている形で。


この人…、彼が身動ぎをする。

「ん?少しは眠れたの?」

戸惑うように私を見つめる彼の視線に問いかけてみる。


「………、ああごめん寝ちゃったんだね」

情事の後の気だるさに負けて眠り付いた私たちに、ようやく思い立ったのか彼が言葉をかけてきた。

抱きしめられた形で眠り込んでしまった彼をただ眺めていた私は、そんな彼の無防備な姿を始めて目にすることで何かを感じていたのだけれど。


彼を受け入れてしまった事に多少の驚きを感じながらも、男と女だからそんなこともあると考えながら。

愛じゃなくて恋じゃなくて、違う何かでそんなこともあるんだなと感じながら。



彼は始めて会ってから饒舌だった。

まるで語らなければ自分と有存在が認められないかのように必死で言葉を絞り出しているかのようだった。

彼の紡ぎ出す、日々の言葉のように。


それほど人目を引かない容姿。

高くもない背丈、男っぽさも全てを許してしまった今でさえ未だに感じられない。


彼を知るほどに明らかになっていった移り気で我儘で勝手なところは、男とゆうよりも子供だろうか?。

それを否定するかのように語る姿は、背伸びしている子供のように私は感じることもあったのだけれど。


言うほど若くもない私よりも確実に年上の彼に、そんなことを言えば間違いなく怒るだろうけど。

いや、意外と諦めたように「やっぱり君もそう思うんだね」と寂しくつぶやくだけかもしれないが。


そんなところに惹かれたのかもしれない。



母性愛とは違う、

何か、

かもしれないけれど。




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彼自身が吹聴するように恋多き男とは、第一印象ではわからなかった。

鳥の絵柄で有名なコミュニティサイトでの繋がりしかなかった私には、サイト上でつぶやかれる彼のいろんな言葉と近況趣味などと彼自身のものかどうかは疑わしかったアイコンだけの先入観しかなかったからだ。

気分屋なのか作り事なのか彼のつぶやきは実に不安定で不確定。

言葉の調子も色々で捉えどころのない人だなとしか思っていなかった。


私がそうであったように彼からも私とゆう存在は多くのつながりを持つフォロワーの一人のはずだったのに、彼の多くのつぶやきの中に混じる恋を語ったような散文が何故か目にとまり、再投稿や返信を繰り返したことが、彼の目にも止まるようになったからだと思う。

その言葉たちは実に素直で飾ることもなくそれが私の中の何かに響いた感じがしたからだった。

最初は単なるつぶやき通しへの返信に過ぎなかったのが、自分でも気づかぬうちに徐々に深いものにと変わっていったような感じだった。

それが興味からか関心からかは今では思い出せないが、それ以上の何かに変わってゆくのを私自身はまだ気づいていなかったと思う。






「無関心とは憎まれるより辛いことだよ」

そんな言葉が思い出される。


昔、付き合っていたはずの人がもらした言葉だった。


問いかけへの答えが怖くて、その答えがとても怖くて…。


肉体関係を何度か持ってしまったあとの彼の振る舞いが、何故かそれ以前より遠くに感じてしまったことが怖くて…。


私はついぞそのことについて、問いただせなかった。

メールの返事がないことや、呼び出しばかりの携帯の返事について。

嫉妬を示せばよかったのだろうか、取り乱す姿を見せればよかったのだろうか。

余りにも大人びた優しげな態度を失いたくて、私には問いかけなどできなかった。


先程の別れ言葉になってしまった言葉にも、返事さえできなかった。

そして殊更に深い関係となったことを戸惑っていたのかもしれない。


そんな経験は僅かでも私の役にたっているのだろうか?。

一時はそんな男の身勝手さと放漫さに疲れ果ててしまっていたとゆうのに。


恋とは何なのだろう、愛情とはなんなのだろう。

幼き日より疑問に思いながらも、それでも周りを真似るように過ごしてきた。

好意に対する興味を恋と思い、そんな自分の心を愛情と思い込み、月並みな恋愛をいくつも演じ続けた頃。

そんなものは、やはり長続きなどしなかったのだけれど。

そしてそれは実ることもなく、傷を増やすだけの孤独な日々を情けなくも受け入れてしまう自分を、時には見つめてしまうことも。


そんな私に彼は、この彼は断言するようにメールのやり取りの中で語ったのだ。

「結婚とかは成り行きであって、互いのその場の利益にしか過ぎないものだ。それも一部にしか過ぎないわけで、残りの大部分を満たすために恋をしなきゃ。そう、このボクと恋をしようよ」と。


口説き文句ととらわれがちなその言葉の綴りを私は何度か読み返してしまった。

それまでのたわいのないやりとりから外れたそれを。


暫らく返事を返せなかった私は、一時間ほど沈黙を続け、長い戸惑いの果て短くメールをしたためた。


「なぜ?」

と一言だけ。


一拍後に、私にとっては凍りついてしまったように無限に感じた一拍の後に返事は帰ってきた。

「そんなのは、君が好きだから。好きな人と恋をしたいから」

思いがけない返事に先程とは違い直様に指は動いた。

「えっ?理由は?それに何故そんなに自意識過剰で強気なの?」

今思い返せば、失礼な言葉だったかもしれない。

とにかく湧き上がったものを私は言葉にして送り返す。

「君を好きだと云う理由なら、そうとしか言えないからそう言ったわけで…。自信過剰に見えるのは嫌われてないんだなって思ったから。無関心ならそんな返事を返さないでしょ?普通…。それから…」


答えは唐突に切れていた。


彼の考えがよくわからなかった。

言葉の綴りでは私にはわからなかったのだ。


まるで続きを望んでるかのように沈黙を続ける私に、彼からの続きが送られてきた。

「それに、文字だけじゃ伝わらないのは、ボクがよく感じてしまうことだから。もし…もし…君がよければ、この番号に電話をして欲しい。今ならボクも大丈夫だから」

その言葉の後には、携帯番号であろうかと思われる数列が記載されていた。



どうしてそうしてしまったのか、どんな思いだったのかは、今ははっきりとは思い出せない。

それほど疑問だったのだろう、それほど意味がわからなかったのだろう、彼と彼の言葉の事が。

勢いだったのかもしれない、他に理由があったのかもしれない。

とにかく私は、その書かれていた番号を押し始めていた。


何度目かの呼び出し音のあと、聞き覚えのない声と聞き覚えのない名前が返事された。

「…えっと…」

その覚えのなさに冷静さを取り戻した私は言いよどんでしまう。

「…あっ、僕です。カズヤです」

その声は慌てたように彼の名を名乗った。

「すっすいません、…ほんとに連絡くれるとは思わなかったから…。だからつい、いつもの調子で名乗っちゃって、あっ…そんなことより今晩はですよね、はじめましても言わないと…」

そんな彼の慌てた様子に、私は少しだけおかしく思えてしまっていた。

「ふふっ…、はじめまして今晩は、カズヤさん」

「えっ?…何かボク変ですか?おかしいなこと言いましたか?」

相変わらずの慌てた調子で彼が聞き返す。

その慌てぶりは、あの横柄で自分勝手な呟きや言葉を綴る人物とは思えないほどだった。

「ううん、ふふっ、別に大丈夫ですよ。ただ…思っていた感じと少しだけ違ったから…」

まだ少しばかり笑いが収まらなかったがなんとかそれだけ答えることができた。

「ああーっ、良かった、少し口調がへんだったから何か失礼なことを言っちゃったのかと思いましたよ」

ほっとしたような彼の言葉。

「それにしても…、わざわざ電話をもらえたことは驚きで、そのう…とにかく感謝してます。それに…思ってたみたいに優しそうな感じの声、とても素敵です」

割とまともな受け答え。

最後の方だけ何か彼らしかったけれど。


それが最初の彼とのおしゃべりだった。



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