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「クルア、キミができないのなら私が自らを…」

その最後の言葉がボクの中に、ただ渦巻いていた。

諭すように、試すように、そして騙すように。

昨日からのできごと。

別れと始まり。

始まりの出会いと、唐突な別れ。

ボクはその渦巻くばかりの言葉を吐いていたはずのものを、ようやく掴み上げた。

そして、聞いたばかりの綻びより漏れ出す力で中身だけを重くしたあと、内側だけ高めた渾身の力で牢屋の壁に叩きつけた。

あらゆるマドの力を寄せ付けなかったはずの壁はあっけなく崩れ落ち、そのモンドが横たわっていた粗末な寝台の枕の上にあったものは、横たわるばかりの身体に別れを告げ、赤い飛沫と共に奈落へと飛び落ちてゆく。

後を追うようにボクも、ボクが居た世界へと帰るために荒ぶる波がまつだろうへ奈落の底へと身を投げ出していた。

ボクが居た世界がもう無くなってしまっているかもしれない不安を抱きながら。




昨日までボクは、世界とゆうものをこの凡庸な瞳で眺めるだけだった。



「クルア、朝飯など早いとこ済まして、聖宮に収めるための花の積み込みを手伝わないか」

おもてから父さんの声が響く。

「すぐ行くから」

そう答えた昨日の朝のボクは、その日が去年とも一昨年とも同じような時期の朝でありそれが来年も再来年も続くのだろうだなんて浅はかな考えに囚われていたのだ。






クルア 凡庸な瞳を持った少年 辺境に住む ホコロビと呼ばれる

モンド 褐色と赤色の瞳 マド クラス=ツイナ 全知と全明の祝福のマドの持ち主





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昨日の朝、その朝までは変わらないはずだった。

おぼろげな遠い記憶の中では、五六歳の頃は父さんと色々な国の色々な場所に行ったことがあったみたいだけど、気が付けば父さんと二人この辺境にあたる村で、花を届ける仕事を繰り返していた。

村長さんの家や他の人の家、祭りの時の村の集会場など、季節ごとに色々な花をそれぞれ届ける。

年に二度だけ村のはずれの聖宮まで届ける仕事があり、昨日はそれを届けて終わりのはずだったなのに。

そう、…聖宮と呼ばれる何度見ても馴染めない感じの建物の前に、昨日は見かけない人影が見えたんだ。

それから…、記憶が途切れて。

気が付くと、牢屋の中だった。

そして、この場所が何故だか見覚えのある感じがしていた。

「やあ、見たところ君は、姿なき暗殺者アブソンスの隠れ蓑のクルア君だね。アブソンスが亡くなったのなら隠蔽の祝福は、あの少女が受け継ぐんだろうね、私じゃなかったから」

「ああ、君は何も知らないのか…。実を言えば君が来ることは、私の祝福である全知全明のマドによって知らされたものなんだけど」

不意にかけられた言葉にボクは身構えた。

誰もいなかったはずの牢屋の中から、声をかけられたのだから。

「だ、誰ですか?何処にいるのですか?それにアブソルは確かに父さんの名前で、父さんが亡くなったって本当のことですか」

先程の語られた内容は良くわからなかったけど、声の持ち主が何かを知っているようだと僕は確信していた。


「こんな格好のまま申し訳ない、私はモンド。祝福持ちのマドだ」

空っぽのはずだった寝台に横たわった壮年の男の姿が現れた。

「このような無様な姿は、元王宮筆頭マド士としてプライドが許さないものだから、隠蔽のマドで姿を消していたのさ。最もアブソルのように祝福ではないので不完全なものだがね」

よく見れば男の顔はやつれ、身体を起こすこともできないようだった。

「えっと、初めましてモンドさん。父さん…父が亡くなったってのは本当ですか?」

色々と思うところはあったのだけど、一番に気がかかるそれを、僕は口にした。

記憶では、父だけが僕にとっての家族であり覚えている限りずっと共に暮らしていたはずの人であったから。





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「アブソンスが亡くなったのは本当だ。辺境のチアルで久しぶりに隠蔽の光が灯り消えた。ちなみにその時対峙するかのように大きな光が二つ。それに異様に点滅する幾重にも重なった光が一つ。点滅する光は隠蔽の輝きが消えるとともに輝きを失ったがな、それがお前さんだ」

モンドと名乗った男の言葉は、意味深い謎かけのように聞こえた。

「…十年以上前突如王国の歴史に現れた姿なき暗殺者を、我々王国マド師団は最初、複数の一味だと考えていた。進出鬼没で毎回違った様々な手口を使う暗殺者集団だと」

男の言葉は回想を交え、僕の問い掛けから外れ出してゆくようだったが、僕は真実を世界の真実を知るために黙って聞くだけだった。

「王国の直属の武力を、そして王国において選ばれし我らマド師団のマドの力を用いても何一つ正体を暴くことさえできなかったのだ。幾重もの罠を張り、幾人もの犠牲を出して炙りだせたのは、まだ幼い少年ただひとりだった。手柄を焦った我々は、ただ幾つかの暗殺の現場に繋がっただけのたった一人のその少年を確証もなく捉え、牢へと閉じ込め尋問を繰り返した」

男の話を聞かされている間何故だか自分の世界、今まで信じてきたはずのものとは違う世界がうっすらと見えてくる気がしていた。

「当時は自分の力を過信し放漫さに焦っていたのだろう。マドの証である片眼でさえなくマドの反応の欠片も無き凡庸な幼子に戸惑いながらだ」

その言葉を聞いた僕は、目の前の横たわる男に確かに見覚えがある事をはっきりと思い出したのだった。



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「情けないことに我らマド師団が突き止めたことと言えば、その幼子の名前と一緒に暮らしているとゆう父親の名前だけだった。そして虚しい尋問を繰り返すだけの日々は、唐突に終わりを告げた。難攻不落打出不能と言われた、この王国辺境にある特別収容所からの脱獄と管理者全員の死亡とゆう汚点を残して」

忌々しそうでもありそれを喜ぶようでもあった表情の男は話をつづける。

「その責任の一端を支払うために、幾つものマドを持つオーバであった私は、マド師団の長としての肩書きを剥ぎ取られ少年が収容されていた此処に、更なるマド封じの結界式を施され幽閉された。暗殺者のその後も少年の行方も知らされず納得のゆかない屈辱的な日々を幾ヶ月も過ごすことになったのだ。そんな日々を費やしたあと、いきなり全てを私は理解することになった。姿なき暗殺者の正体と手口を。そして自身が幽閉されることとなった本当の理由を。私の持つマドの一つ全知全明の力が祝福へと昇華されたことによって」

「それが父であり僕なのですね」

ボクの言葉に男は静かに頷いた。

「でも、そんなものは些細な問題でしかなかった。新たに手にした祝福によって私は、ある人物の来訪をやがて感知する。やってきたのは<百目>と名乗る見知らぬ異様な人物であった」










「『忌々しい奴め、せっかく手駒のマドであるアブソンスとホコロビを使い、全知全明の祝福を我が物にしようと画策をしたのにな、まあ良い他にもやることは多い。片割れのホコロビも手中にある…。残りを始末すれば何れその力もその他の力全てをも我が手に…今日のところは挨拶がわりだ…また…』私を見るなりそう吐き捨てた<百目>と名乗る人物は、それだけを言い残し去っていったのだ」

「私の持つ祝福の更なる力を奴は知らなかったのだろう…。全知全明の祝福が知り得たその言の葉から全てを見通してしまうことを。故に君は、ホコロビと云う全てのマドを祝福として使用できるホロビ及びスクイと成りうる存在の片割れだ。未だアブソルの支配のマドの影響を受けているようだが、何れ覚えたマドの力を仕込まれたもの同様に自らの意思で自在に操ることになるだろう」

「百目には気をつけることだ。君がホロビとなり片割れがスクイとなるのか、それとも逆となるのかは私にはもう興味がない。本来ならば私が死ねば全知全明の力は百目にと移るのであろうが、その力をホコロビである君も得れば良い。そうすれば君の父への復讐といったものも容易く見通しがつくはずだ。私を殺し前と同じく此処を出て世界を見つ目直せば…。ただし、くれぐれも百目に気をつけるように」

男はそう言葉を締め、その赤く光る片眼でボクを見つめた。

ボクは多くの言葉に混乱し、ただたちつくすばかりだったのだけど。




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「君のいた世界、そして世界の本当の姿。戻りたくはないかね、知りたくはないかね。真実を」

そう言ったあと男は、何処に隠し持っていたのだろうか短いナイフのようなもので自らの胸を差し貫いた。

その突然な行動に驚いたボクは、思わず駆け寄りその深々と刺さったナイフに手をかける。

「…思ったより苦しいものだな…できればぬいてくれないか…そうすれば…」

言われた通りにボクはそれを引き抜いた。

大量の血が吹き出ることとなったが、その顔には笑みさえも浮かんでいるように思えた。

広がる血溜りをボクはただ見つめる。

ぼんやりとした記憶の中に、こんな光景を何度も見たような気がして。



どのくらいの時間が経ったのだろう、寝台の血溜りもそれ以上は広がらないようだった。

幾つもの疑問を残し勝手に逝ってしまった男の言葉の数々が浮かび巡る。

それは、何か答えがありそうで未だ霞がかかったままの渦のように感じられる。


「…とにかく此処から何とかして出なきゃな」

考えと行動をまとめようと、思ったことが言葉に出る。


「…先ずはそれからだね」

再びかけられた主無き言葉に目を見張ってしまう。

あちこち見回してみても、無論狭い牢屋内に他に誰ひとりいるわけではなく、あるのは寝台の上で血溜りに浸かる物言わぬはずの骸だけだった。

「ああ、其処じゃない、その骸は見た通りのものだ。私は此処だ。私はモンドであり、そして君自身でもあるのだよ、クルア」

声は耳ではなく、ましてや動かぬ骸からでもなく自らの中に響いていたのだった。




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「このことは、君が考えているようなマドのもたらすものでなく、ホコロビとしてのものだ。ホロビ…スクイ…どう呼んでも良いのだが、それらがかつて持っていた力を再び摘み取る事に付随するもの、オマケのようなものだな」

「…そう、今考えたとおりこのことはいつでも答えが出せる。私は君でもあるのだから」

「そうそう、此処からの脱出の話だ。昔、君が此処から出るのに使っていたであろう君のマドや祝福は、未だアブソルの影響を受け不安定なものだ。暫しの時間さえ経てばそれを取り戻せるだろうが、時間がない。言うまでもなく奴がそのうちに現れるだろう」

ではどうすれば?とボクは思いを浮かべる。

「何、そんな力に頼らなくても手段ならある。君の素の力で重たいものを振り回して壁を打ち破る。それだけだ。そう、君が目にしてるものを使ってね」

確かに今使えそうな力は、僅かなマドによる物の切断くらいのようだ。

この牢屋全体に言えそうなことだが、結界らしき力が張り巡らされているようで、生半可なマドなる力では打ち破れそうもない。

となると、内なるモンドの言うことが正しきことなのだろう。

しかし…。

此処まで考えて少しばかりとどまってしまった。



「クルア、キミができないのなら私が自らしてあげるから」


そんな自分に、内なるモンドの提案があがる。

その必要はないとボクは首を振った。

思うだけでそんな仕草など必要もなかったのに。

ボク自身の力でボク自身の道を開くのに、ボクでない者の手を煩わすこともない。


ボクは静かに骸に近づき、その首を落とす。

長い髪を掴んで振り回すと壁にと叩きつけた。

手にした道具と自らの身体に力を与えながら。

そして、勢い余って落ちてゆくそれをただ眺め、同じように世界へと飛び出した。

多少の不安を伴いながら。




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白を基調とした聖宮本殿の自室で、ペリッシュは微睡みの世界から現実へと舞い戻ってきた。

その華奢な肢体を起こすことなく小さな顔には似合わない大きめの瞳を閉じたままいつものように室内を感知する。

視線とマドによる監視がないことを自らのマドによって確かめ、それが朝の決め事のように己が瞳に怪しく異力を通す。

起き上がり開かれたその瞳には、その力を示す赤き光が本来の色を隠すように宿っていた。


声を出すことなく意識をマドにのせ部屋の外に飛ばすと、音もなく控えていた侍従が部屋の中に訪れる。

「聖主様、おはようございます」

挨拶に軽く頷き身支度に身を委ねるペリッシュ。

乱れていた髪は行儀よく整えられ、着ていた楽な寝着も正しきものへと着せ替えられる。

その地位に相応しき姿にと彼女が移り変わると、部屋の扉は開かれてその役目の場所へと今日も促された。

それは、聖主である彼女の長い一日の始まりであった。


白き無垢なるローブにその身を包んだ彼女の行き先は、聖宮本殿中央の大広間。

広間を閉ざす荘厳な大扉は彼女のために今朝も開かれ、多くの下僕なる信徒が並び傅く中央を分けるように放漫とも言える態度で歩みゆく。

大いなる威厳を伴ったその小さな身体が一段高き豪奢な玉座に収まると、並び傅く一段が揃えたように更に深く頭を垂れる。

それを満足げに眺めまわし頷く彼女に、待っていたように先頭の信徒から挨拶の言葉がかかる。


「聖主様におかれては今朝もご機嫌麗しく、世の………」

いつもと変わらぬ長々とした口上が単調に続く中、瞳を閉じ重々しく頷きながらもペリッシュは、心の内では聖主らしからぬ思いを密かに抱いていた。


…それにしても毎朝毎朝 飽きねえものだなこいつらは


ペリッシュは隙なく作られたその聖なる外見に似合わず心の中では、退屈な顔で呆れていたのであった。


「そんな不敬なことを思うでないぞ。敬虔なる信徒ばかりのこの場で主の心うちを読み取ろうとする輩などおるまいが用心に越したことはない」

思いを読み取られたようにペリッシュの頭の中に唐突に声が響いた。

それに驚くこともなく彼女はその面持ちを変えず神妙とも言える辛抱強さで、退屈な口上を阻むことなく静かに耳を傾け続ける。

…ああわかったよ。それにしてもあとどのくらいこの莫迦どもの茶番に付き合わなけりゃーなんないんだ

顔色一つ変えることなく彼女は声に心でこたえる。

「暫しの辛抱じゃ我慢せい。モンドの力は手に入れた、このあとは一つ一つ力の在り処を暴き出し我らが糧とするだけじゃ」

彼女の憤慨を宥めるように声なき声がまた響く。



…我らじゃなくてテメエのためだろ?



ペリッシュの吐き捨てるような返事に答えはなかった。

おそらくは力を閉じてしまったのだろう。

そんなやりとりを忌々しく思いながらも、聖なる者の勤めを果たすため、終わりが来るとは到底思えない長い苦渋の時間を

彼女は今朝もまた粛々と受け止めることにしたのであった。



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「何故だ?余の国でありながら、余に従わぬ輩がいるのは!誰か?誰でも良い!応えてみよ!」

またもや始まった聞くに堪えない愚問に、ブラブルアは嘆息を漏らすしかなかった。

もっとも最古参の重鎮であり大将軍の地位にある老獪とも言える彼は、そんな様子はおくびにも出さず目を閉じ腕を組んだまま静かに聞くばかりであったのだが。

大恩ある先代の賢王より託された事ではあったが余りにも愚弄なその息子の言葉に異を唱えることさえ、彼は既に諦めていたのである。

愚弄なる言葉は留まる事なく続く。

「何故だ?何の権限であの小娘は余の言葉に従わぬ」

「恐れ乍ら、それこそが特別自治区の特権であり、かの聖主にしても彼ら聖宮殿に使えし多くの信徒の代表に過ぎず、彼らの評決の代弁に名を連ねるだけであります」

同じく王国の重鎮で宰相のイセルが、永遠に続くであろうと思えた冷めた雰囲気に一石を投じた。

唯一、主君を諌める汚れ役を再び引き受けたのだ。

「そんなことは問うてはいない!余の要請に逆らう者を何故野放しにしているのかと聞いておるのだ」

まともな答えに対する返答すらも、この愚かなる王にとっては無意味だったのであるが。

噛み合わないやりとりと質疑の滞りに、ブラブルアの忍耐も切れ始めた。

「陛下!此処は軍議の場でありますぞ」

目を開き一言だけ異を唱えるブラブリア。

「わかっている!そんなものは!」

「ならば…」

「ならばだと?軍議の決定事項でもある余の命に、全土に置いて一部の例外もなく余の指示に従えと云う余の命に、何故誰も従わぬのだ」

愚問を打ち切り軍議を進めようとした大将軍を、愚王が押しとどめた。

「例え我が君の言葉といえ、建国より続いた慣例を崩すわけにはいきませぬ。遠き昔、建国に貢献した聖宮の民の聖地は永久に不干であり、それを揺らぐことは王国そのものを…」

「黙れといっておるのだ!そんな昔の朽ち果てた慣例など余には関係ない!お前たちができぬなら余自らの手であの高慢な小娘の首を落としてくれるわ!意義あるものは部屋から出てゆけ!ただしそやつは二度とこの余の前にその顔を晒すことを禁ずる」

余りにも酷い暴言に誰しもが顔色を変えた。

またもや中の雰囲気は抗いようもなく冷えだすだけであった。

その中で一人だけ立ち上がる者がいた。

「儂には息子がおりますからな…歳でもあり引退を願います」

「ああ、望みどおり貴様の大将軍としての地位を剥がしてやるわ、好きにしろ!」

愚王の言葉に深々と礼をしたブラブリアはやっと肩の荷が下りたかのような清々しい顔さえしながら、何も実りなど期待できない部屋から退室していった。



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日も昇り、睡眠以外は唯一とも思える食事時でさえ聖主としてのペリッシュには休める時間がなかった。

最もこの聖なる白に塗り固められた聖宮本殿から出ることなど許されない彼女には、時を知るものなど本殿の大鐘の音だけだったのだが。

聖なる物に仕える者らしく質素な食事が運び込まれ食事をとるペリッシュに、お付きの信徒が午後からの予定を告げる。

「再び、王国よりの使いが来ましたが如何いたしましょうか?」

「その件に関しては、この間お断りの書状を持たせたのではありませんか?わたくしの名を記して」

面倒だなと思いながらも、食事の手を止め厳粛な聖主にふさわしく穏やかに返事を返す。


「あのうつけ者の戯言など捨てて置けばとの総意でしたが、なにぶん今回は王国一の実力者であらせられますブラブリア殿が是非にと謁見を申し出て早朝よりお待ちしているのですが。本人が申しますには王国軍を率いる大将軍としてではなく、一信徒であるブラブリアとしてお目にかかりたいのこと」

「その大将軍とやらは如何なる御仁なのですか?」

どんな事柄も、こいつの云う処の総意で決めるのなら、いちいち伺うような真似など無意味だと感じながらも、儀礼的に会話を続ける。

「将軍の一族は王国の重鎮の中でも数少ない我らが教えの信者であり、聞くところによりますと戦場ではその聖なる恵みの力を用いて幾度も王国を窮地から救い勝利に導いたとか…」

「如何なる力でありますの?」

ペリッシュの目が光る。

「よくは知らないのですが、その力でその身を幾つにも分け、同時に異なる場所で獅子奮迅の戦いをすることができるとか」

こいつは使えるかもと、ペリッシュは思った。

「では、わたくしくがひとまずお会いして話だけでも伺いましょう」

「それは…構いませんが」

「ならばそう致しますね。全ての信徒の悩みを受け止めるのが聖主としてのわたくしの勤めなのですから」

にこりと微笑んでペリッシュはその事柄を打ち切った。

返答次第では、魅了の力を使うことも辞さないと思われたが今回はさほど重要でもなかったらしい。

そのまま大人しく引き下がったお付きの者は、蒸し返すこともなくその他の懸案の事項を伝え、いちいち彼女に了承を求め続けることになった。

会話に中断を続けながらも短いペリッシュの食事がようやく終わりそうになる頃、確認するかのように最初の話を蒸し返すお付きの者。

「大将軍との謁見の後には、先ず結果の報告を願いたいのですが」

「もちろんですわ。実のあるものを直ぐにもお話いたします」

幾分怪しげな色を混ぜながらも微笑んで、彼女はそう答えを返したのであった。




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聖宮本殿のとある一室で朝から待たされているブラブリアは、後悔の念に苛まれていた。

引退も潮時の頃と考えていた彼が、先日の王宮での軍議の折、愚王の戯言に乗ってしまったとは言え義務を放棄し形的に大将軍の地位を退くことに至ったことを。

恒久とは言い難いがこの平和な時世に自らのような武人は用もなく、下に閊える者が待つ身とあらばそれすらも良い機会だと思ってしまった事を。

それだけでは留まらず、歳月を費やすたびに愚かさがます愚王を測りかね、退陣だけではなく結果的に爵位の減爵までも含まれたうえ不本意ながらこのような場所への使者などとゆう役割をを拒めなかった事を。

それらのことが、責務を下ろしたとはいえ新たに慣れない重荷となり今己に潰さんばかりに伸し掛るのを感じていたからだ。


自分が去ったあとの軍議での理不尽な決定を受け取った直後は憤慨したものだったが、そのことを心配した友人でもある宰相のイセルには、一族や領地の民にまで迷惑をかけられないと本音を漏らしたことも心に浮かんでしまう。

そんな事柄に思い悩んでいたブラブリアにとって待たされる時間はとても長く感じられたのであった。


時は虚しくすぎるばかりで聖宮としての公式な受け答えは未だなく、待つあいだに出された昼食替わりの食事にも、先の見えないことに胸が使え口にすることができない。

これが戦場ならば、自らと指揮する軍を鼓舞する術もあろうかと思うばかりであった。




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「失礼します。大変お待たせいたしました閣下」

悩みの迷宮に囚われていたブラブリアを救い出したのは、うら若き優しい声であった。

「…聖女どの?」

扉より現れた姿にブラブリアは思わず声を漏らした。

「聖宮教の聖主を務めております、ペリッシュと申します。初めまして大将軍閣下、聖主でも聖女でもお好きに呼んで下されば良いですけど、できましたらペリッシュとお呼び下さいませ」


まだ少女ではないか…
ブラブリアは思った。


王国には珍しく聖宮の信徒でもある彼は、聖女とも呼ばれる聖主の存在は知っていたが、公務に明け暮れる日々に追われていてその容姿までは知らなかった。

様々な聖宮教の式典や行事は一族の他の者に任せっきりだったのである。

そういえばサゲシティの奴が前に幼女が聖主に選ばれたと言っていたな…
ブラブリアは改めて息子の言葉を思い出した。


「それにしてもペリッシュ聖主どのは…」

「…若すぎる…とお思いですか?何せわたくしに神託が降りたのは十にも満たぬ頃でしたから」

その優しき笑顔を崩すこともなくペリッシュが応える。

「失礼いたした、年齢など…。その選ばれた御力が備わっておればですな」

選ばれた限りは、類まれなマドなり祝福を受けているのだろうと思いそう告げる。

「お恥ずかしい限りです。わたくしの出来る事と言えば、先代様と比べれば大したことなどないのですから」

「ご謙遜を、数々の聖なる治癒行為や救いようのないほどの罪人を更生に導いた逸話などこの信心薄き某でも聞き及んでおりますぞ」

時折伝え聞く数々の奇跡を思い出しブラブリアが述べる。




「そのような事実はございません」

静かにペリッシュが語る。


「えっ?」

違和感を覚えながらブラブリアは、聞き間違いかと思わず声をあげる。

何故か聖女の声は遠く、その可憐な姿さえ朧げに感じ始める。



「だから、そんな力はねえって言ってんだよ。”治癒”とか”魅了”とかの半端なマドや祝福なんてぇのはな!」

遠ざかる意識の中ペリッシュの嘲りだけが響いていた。




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気が付くと変わらぬ世界が広がっていた。

何処までも続く青とそれに織り成す白。

それはほんの数日前と変わらぬ空だった。


そして、父さんが死んだことも牢に囚われたこともその後のことも、夢のような別の世界ではなかったのかと、僕はふと思った。

「残念ながら幾つもの別の世界へとつながるそのホコロビの力も、別の世界に行けるわけではなく、それは同じ世界なのだよ」

「なんだよモンド、起きてたなら起こしてくれれば良かったのに」

僕は僕でもあるモンドに文句を言った。

「あそこからの脱出は、やっかいなことだったからね。その力を振るうためには、クルア、君を奥底に沈めることが必要だったのさ。安全を確認した今、君を開放し起こしたと云う訳だよ」

押さえ込み沈めた意識を解き放しただけだから、なにも声をかけ揺り起こす必要がなかったと云う訳か…。
僕はそう考えた。


「力、ホコロビとしての君の力は、アブソルの呪縛下に未だある。全てを蝕むその力をもってアブソルの呪縛を侵食し劣化し同化してしまえば、解放されるがどうするかね?映っていた世界が違うものに見えてしまうかもしれないが…」

その言葉は微かな不安を生み出し、言葉となって口をついた。

「父さんとの思い出が消えたりしなければ…」


「それはないね、記憶がなくなるよりも増えるくらいだ。例えば、封印されていた”操り”の時の記憶が蘇るとか」


「世界の事実がわかるなら…」

「少しばかり違うが、まあいい。望み通りにしよう」

僕は返事の代わりに決意を込めて頷いた。


「君が知らずに蝕み同化した彼の力”操り”を使い、君の意識を保ったままで侵食が使えるようにしよう」

彼が僕の中の何かを掴み動かした。

僕自身には覚えのない”操り”とゆう力だろうか?それは従わせるといったものではなく、まるで慈愛に満ちた優しき導きのように感じられた。

「わかるかね?君の中に刻まれているものを。それがアブソルが植え込んだ祝福”操り”の呪縛そのものだ」

モンドの言葉通り感じたものに僕は、何かを伸ばす。

伸ばされた僕の何かが感じたものに染み込み馴染み、僕の一部になる事を不思議な思いで感じていた。

だけど世界は別に変わらなかった。

頭上に広がる薄雲に霞む空、打ち上げられていた浜辺に寄せる波も穏やかなものだ。

きっと幼い頃も、忘れていたその時々の瞬間さえも同じように僕は感じていたのだろう、今と同じ世界を。


ただ、父さんの命ずるままにしてきた多くの事柄が、今でははっきりと思い出せる。

そう、僕の手は幼い頃から消すことのできないほどの血と死と罪に染まっていたのだった。




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... 続きを読む

「ところでモンド。一体ここは何処で、どうやってきたんだい?」

暫しの沈黙のあとモンドが答えた。

「…あっすまない。考えごとをしていたのでね。その答えは今は自分の中にある記憶を探せばいいとおもうのだが」

「ああそうか。自分でやったことなら思い出せるってわけか」

僕は記憶を探ってみる。


「そのう…、”侵食”とか云う力を振るって此処まできたのはわかったけど、此処は何処なんだ?モンドって”全知全明”いや゛全知全能”なんだろ?」

「………それは」

モンドは言いかけて言葉を止めた。

「それは?」


「…いや此処は、あの幽閉場所より遥か離れた海岸、…辺境の町チアルの浜辺だ」

その言葉で僕は理解した。

…変わらないはずだった

…見覚えがある気がしたはずだった

…ここは父さんと住んでいた町だ

と、僕は今更ながらに気がついたのだ。




クルアの中のモンドは考える。


 何故 わかりきったことを聞くのだろう?

 その記憶を辿りさえすれば 「どうやって」など思い出せるのに

 この”全知全能”の力を自分でも使えば「何処」などわかりきったことなのに


 此処まできたことが 自らが望んだ結果だと云う事を意識してないのだろうか?

 そもそも 力が自由に使える今 



  何故 私が彼の中で同化されず 別の意識として 存在しているのだろうか!?


 彼は 私だ  モンドでありクルアでもある…


そう私は、クルアが優しさと孤独から、モンドと云う存在を失いたくないのだと、知っていることに気がついた。




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腕を伸ばすがごとく肉体を絡めとりその制御を終えたのち更なる隷属をもとめ伸ばされた”支配”の力は、精神をも服従させるため掴んだ心に深々と差し込まれブラブリアを犯してゆく。

そしてその圧倒的で一方的な陵辱は唐突に終わった。


「さあてね、どうしたもんかな…」

己の真の力を用いて目の前のかつての歴戦の戦士を難なく支配下においた少女は、そう呟いた。

「色々と聞きてえことはあるけど、先ずは腹ごしらえからかな、いつものあれじゃあ足りねえし」

そう続けたペリッシュに目の前の男が声をかけた。

「怖れながら我が新たなる主よ、部屋の扉向こうで中を伺う者たちをどう致しましょうか?命あればそれがしが…」

「ああ、あんなのは気にするこたあねえよ、世話と監視が役目みてえだけどよ、既に支配下にあるからさ。最もこの聖宮本殿に常駐してる奴らなどどいつも同じさ、てめえじゃわかっちゃあいねけどよ」

支配下に置かれながらも自主的な言動を続けるブラブリアに驚愕を覚えながらも、ペリッシュは平然と答えてみる。

自らの支配制御に絶対の自信故の返答であった。

「面しれえな、ゾクゾクしやがる。支配を受けて言葉を出せたのはてめえが初めてだ」

「某の意識は特に変わりなきものだと、無論新たに芽生えた忠誠も主の御力と判断はできる。が、某の忠誠は前王陛下に捧げたものであり先程までは捧げる先も宛もなかったのは事実。某としては、以前の前陛下に誓ったものとかけ離れてるとしたのなら心苦しくは思うのだが」

ペリッシュはじっとその目の前の男を見つめ静かにその言葉の意を思案した。

「じゃあ聞くけどよ、その誓いってやつはどんなものだ?」

「それはただ一つ、この国の繁栄と」

「なら…、目の前の俺は、その繁栄の邪魔と思うか?本音を聞くためにも試しにその支配をはずそうか?答えが聞きてえな」

恐れることもなく挑発するかのように少女は問いただした。




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「主…いや、聖母殿、貴女は危険な存在だ」

見た目は何も変わらない少女ではあったが、ラブラリアは目の前の存在が、恐れ敬う存在でなくなった事を感じた。


「ん?剣が欲しいのか?武人とは不便なもんだな。おーい将軍の剣をもってこい!」

部屋の外であたふあたとした気配が浮かぶ。

暫しの時が経ち扉が開けられ、無骨な大剣が武器など無縁にしか見えない可憐にさえみえる少女に手渡された。

「重ってえ武器だな、あの力があったならこいつでいくらでも相手をぶった切れたことだったろーな」

少女がそう言ってひょいっと大剣をブラブリアに投げ渡す。

やってみろよと言わんばかりに。

躊躇なく大剣を受け取ったブラブリアは立ち上がり、瞳に力を入れ剣を抜き構える。

だが、そのあとは立ち尽くしたまま微動だにしなかった。

いや、動けなかった。

…何故だ?

…何故”同在”の祝福の力が使えない?

心うちとは裏腹に顔色一つ変えることもなく、動揺を押し殺し偉大なる老戦士は油断なくペリッシュを睨み続ける。


「ん?力が使えないと戦えないのか?あれなら返してもらったぜ、もともと俺の…俺たちの力だからな、この”重罪”の力はな」

ペリッシュの言葉に驚いたブラブリアであったが、その視線と姿勢に変わる様子はなかった。

「遠慮などするなよ将軍、じゃあ、的を増してやっからよ」

そう軽く言い放ったペリッシュの身体がぶれだした。

やがてそれは、かつてブラブリアが戦時下において使ったものと同じく二人に増えたペリッシュの姿であった。



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「ん?どうした?大将軍さま。遠慮なんかするなよ」

「こりゃあ遠慮じゃねえだろう。身体の支配がまだ効いてるからじゃねえか?」

「言われてみれば忘れていたぜ、忘れっぽいのが俺のだめなとこだな」

「ああ、そうとも我ながら情けねえぜ」

「これな…」

同じ顔同じ姿の二人が向かい合って喋っている間、微動だにしなかったブラブリアだったが、身体の拘束が解けるのを感じた途端、迷うことなく片方の少女の首を撥ね、返す刀でもう片方の胸を深々と貫いた。

血しぶきを上げ転がり落ちた首とともに崩れ落ちる少女と、胸を貫かれそれを眺めたまま倒れ掛かる少女を見下ろしブラブリアは何か違和感を感じていた。

彼の持っていたはずの”同在”の祝福のマドは同時に存在する力であったが彼女の言っていた”ジュウザイ”なる力とはなんなのだろうと。

首を撥ねられるか心の臓を突かれれば、己でもその命と祝福を手放すことになるはずなのだがとおもいながら。


「”重罪”とは力を用いて幾重にも同じものが存在する事、この世界のことわりから大きく外れた罪深い力のことですわ、将軍さま」

食事の手を休め、向かい合った少女が微笑みながら応えた。

先程の光景、確かな手応えは、ブラブリアのもとから今にも消えてゆきそうだった。

事実夢のようにあやふやなそれらは、再び行儀よく食事を続けだした聖女の姿に打ち消されてゆく。

「お食事がお気にめさないのでしょうか?それとも他に何か?」

心配そうに少女が、固まってしまったままのブラブリアに声をかける。


「…聖女どの、…貴女はいったい?」

自分の信じていた世界に自信がなくなってしまったブラブリアが洩らすように呟く。


「わたくしですか?見ての通りの年端のいかない少女ですけど」

その僅かなつぶやきが聞こえたのであろうか、ペリッシュが再び食事の手を止め答える。


「聖宮の主である聖母ペリッシュであり、スラム出身のアバズレであり、そしてホコロビの一人”支配者”でもあります。周り全てのモノの心身や総てを支配し、己自身の身体までをも支配するわたくしに、もう一度挑んでみますか?」

微笑みながら言葉を続けた少女に、ブラブリアは納得がいったようにゆっくりと首を振った。




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「英雄と呼ばれた貴方様にしては、諦めがよろしいのですね」

穏やかな慈悲を伴う微笑みで少女が問いかける。

「レトア様、先代の賢王さまが昔、まだ血気盛んな若造に過ぎなかった某によく申されました。如何なる戦でも味方を勝利に導くのが英雄の証であると、武で勝てぬなら戦わず、負けて滅ぶことがないように務めることこそが英雄と云うものだと」

目を閉じ考えぶかげに答えるブラブリア。

「随分と弱気なことなのですね」

少女が返す。

「国も民も敗れ滅んでしまえばそれで終わりで、従属に甘んじ生き延びることはある意味勝利ともいえるのだ、我が主は、開国より守りしものに末永く仕えるため滅ぶことなく英雄であれと申されました」

「なるほど、そう云う理由なのですね。武人とは面白い考えの方々ばかりです」

少女の言葉と顔からは、あいも変わらず慈悲以外のものなど微塵も感じ取れなかった。


「そうは申しましたが聖女どの、正直に申せば、貴女の力は余りにも強すぎる異質すぎる。仮に従属に甘んじ生き延びることが民にとって国とって果たして良い道なのか、情けなくもありますが未だに某には迷うところです」

言葉とは裏腹にブラブリアの顔には、負け戦をなんとか打開しようとする不屈ともいえる決意が現れていた。

「そんなに力まなくとも良いのですよ将軍様。今更わたくしに何かをしようとすることも危惧を抱くことも無駄なことです。だいいいちわたくしがこの国を民を滅ぼすことなどありえません。わたくしこそが守られしもの。この国は開国より私の国なのですから」

少女の言葉は無敗と呼ばれた目の前の英雄をあっさりと貫き打倒したのであった。




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食事を終えた二人の間には、妨げるものなどなくブラブリアは見据えられたまま身動きさえできなかった。

「我らは悠久の時より世界を導きしもの、そなたの疑い憂いをはらすよう、わたくしがこの国の支配者たることを証明します」

ペリッシュの言葉と共に室内に圧倒的な威圧が満ちた。

その耐え難い重みと湧き上がる恐れに頭を下げたブラブリアにペリッシュは言葉を続ける。

「長き時の間に力を失いし下僕の末裔よ、この真の支配者たるわたくしが新たに祝福を授けます。そなたは折れることのなき無数の我が剣、これよりその力を用いて我が道を阻むものを打ち払うべく無敵の露払いとなるのです」

ブラブリアの身体と瞳に馴染みとも言える力が宿った。それは以前とは比べ物にならぬ大きさであり、変わらぬ強大な威圧と威厳の中、改めて彼は忠誠を誓う。

「マイロード、授かりしこの”重在”の力を用いて必ずや」


「では、参りましょうか我が居城へと」

そう言ったペリッシュが立ち上がり、部屋を後にする。

後を従うブラブリアには、迷いや朝までの悩みなどとうに消えていた。


「聖主様何処へ?」

歩き続けるペリッシュに正宮内の者たちが何人か声をかける。

「城に」

そう答える言葉と寄り添うように従う武人の無言の圧力に、誰も阻むことはなかった。

ざわめきだした正宮内を黙々と歩き続ける二人。

「これでよろしいのでしょうか?理由も事情も示すことなどなく」

結果的にあの王であったモノの思惑通り聖女様を城に連れ出すことになったなと思いながら、その行為の後の影響も考えブラブリアがおずおずと声をかけた。

「このような者共など放ってよけば良いのです、後にそれなりの処遇をしますから」

「御意」

歩みを止めることなどなく、顔を向ける素振りさえないペリッシュの言葉にブラブリアはただ承知の意だけを返すこととなった。



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正宮本殿の扉の前で二人は、歩みを止められることとなった。

「ブラブリアどの如何なつもりですか?」

本殿の扉を塞ぐ形で二人を取り囲んだ者たちが問いかける。

彼らの顔には荒事も辞さぬような決意が浮かんでいた。

それでも言葉だけで引きとめようとするあたりは、英雄の武の成せるものなのか聖主の身を案じてのことなのか。

「あの愚か者は後先など考えておらぬ様子。ここはわたくしの言葉にて思いとどまるように申し渡すつもりです。此処と皆様方のこの先の安らかなる静寂のために」

主には何かしらの考えがあるのだろうか?それとも単なる気まぐれか、何れにせよ指示なきまでは何もと思い大人しくブラブリアは主であるペリッシュがこの茶番を終える間、静観を続けることとした。

「その愚かさ故、聖主様に何をしでかすか心配なのです。あの者は無理難題で配下の輩たちを愚弄すると聞いております。そのような…」

ブラブリアに少しだけ目線を向け話は続く。

「ですからこそ、わたくしが出向くのです。将軍様にお聞きしました、このままでは害をなすと、此処と皆様方に害をなすと。かのものは残忍で容赦などないと」

それを聞いたものたちの顔は、明らかに青ざめていった。

持っていたはずの自分たちの優位性、ペリッシュからの利と自分たちの保身を測り比べること、支配の薄まった彼らの身勝手な思惑が顔色の変化によって垣間見えるようだった。

「心配には及びません。わたくしの身柄なら此処におられる将軍様が守ってくださるからです、この場はわたくしからの吉報をお待ちくださるよう…」

ペリッシュの言葉に答えるかのようにブラブリアの威圧が増す。

その見えない圧力で囲みを解いたブラブリアはペリッシュを伴い本殿より外へと抜けた。


「将軍様ご無事で」

すぐさま従者とおぼしき者たちが二人に声をかける。

「馬車を」

それだけ命じたブラブリアの目の前に用意されていた馬車が引かれてくる。

労わるように少女を伴ってブラブリアがなかに消えると、逃げるように一行は本殿を後にした。

揺れる馬車の中、静かに命を待つブラブリア。

白く輝く正宮本殿の姿が背後から消え去ったあと、ペリッシュは思いついたかのように言葉を発した。

「先ずはそうですね、館に案内してください」

将軍は迷わずにそれが自らの領地であると確信し、一礼をし御者と追従するものたちに行き先を告げることとした。





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