FC2ブログ

「これでもう天空の守護も終わりじゃ、これからは永劫に昼と夜がめぐることじゃろう」

「そうじゃなソリス、世界は安定し混沌に舞い戻ることもなかろう」

二人の老人が席を立ち右手の扉から消え去った。


「テンポスの云うとおり、わが海原も満ち満ちて…」

「…大地も変わりなく恵むと云う事だ」

また二人立ち上がり左手の扉へと向かう。

「マーリス様もフラメント様もゆかれてしまうのですか?」

部屋の隅で立っていた若者が声を上げる。


「そうわたしたちの役目は終わったのよ。恵みより生まれ出るものたちは育み、やがて恵みにと戻ることでしょう、わたしたちの手助けなどなくとも」

そう言い残しい唯一の女性も奥の扉にと消えゆく。

「アモレ様まで…」


「…そう嘆くでない、名も無きものよ。何れまた違う形で会うこともあるだろう、主がこの世界を見守り続ける限りな」

「アーク様…」

最後に席を立った男を見送り、ただひとり取り残された若者は部屋の中央に浮かび輝く不思議な輝石を、問いかけるようにいつまでも見つめるばかりだった。



スポンサーサイト




かつて、光と闇は相反する世界の象徴であった。

創造以来、拮抗した二つの力は譲り合うこともなく永遠の争いを続けていた。

あるとき、始まりの真理について解明をなした初代闇の帝王は、創造主<輝石>を手に入れるため選りすぐった配下の者たちを世界各地へと派遣した。

輝石を手中にさえすれば、均衡を崩し争いに終止符が打てると考えたのである。

ただし、その後の世界は争いのかわりに、彼の支配する絶対服従の闇の世界と言うわけなのだが。

或る者は闇の帝国の本拠、東の大陸内部を、また或る者は西方に広がる光の島々を、残りの者達も極寒の北方や灼熱の南の海へと散っていった。

その中で南西にあると伝えられていた未知の島へと旅立った者がいた。

名はアーク卿、闇の大司祭である。




 <創世連詩 初章>


世界の始まりの前 

光なき広大な虚空は 混沌に満ちていた

あるとき 

蠢くばかりの混沌より 

一粒の輝石がふいに生まれ落ちる

永劫の長きあいだ 

輝石は混沌を漂っていたが 

やがて 

幾多もの輝く広大なるものを生み出しはじめ

 最後にその内のある一つの場所に安住する事となる


輝石はそこに 

更に新しき世界を創造し眠りついた

それからのち新世界は 

刻々と無限の時を刻みだしてゆく

自らの力によって


輝石の創りし世界は長き時の間

光と闇の二つのモノにと分かれていった


それらはそれぞれ 

命あるモノ達で溢れる事となってゆく


命あるモノ達は異なるモノゆえに

互いを拒み

些細な誤解と苛立ちから

幾つもの争いが起こることとなる


やがてそれはいつしか輝石までを巻き込み

永劫の争いとなりて世界に蔓延してゆく



大いなる力の支配を巡る

果て無き

虚しき

争いへと







─ 東の大陸の西方 バランナ海 ─

帝国の最新型帆船黒龍号が、光の島々の南沖を航行している。

季節がら、バランナ海は雲ひとつなく波も穏やかで、順調な船旅が続いていた。


「司祭様、あと三日もすれば例の島が遠眼鏡で確認できますがね」

船長が舵を仕切りながら、隣に佇む大司祭に目をやった。

「島の名はカオスとゆう」司祭は問いには答えずつぶやいた。

「はぁ、そうですかい」

「我らが発祥の地、いや全ての始まりの場所だ光と闇の」大司祭は構わず続ける。

「名前や言われは知らねえですが、船乗りの間では呪いの島と呼んでおります」

「海岸は見上げるほどの屈強な岸壁で、所々見え隠れする岩に囚われ多くの仲間の船も行方不明に…」

「カオスは望まぬものを拒もうとする島だからな、呪われていると言えばそうかもしれぬ」

「上陸できなければ、お目当ての物も探しようがないねぇかと…」

「案ずるには及ばぬ、その為にワシがおるのだから。」

「では、その時は何卒おねげぇします」

「言うまでもなきこと」

さらに二人の会話は続いてゆく。


相変わらず穏やかな波の中、帆に爽やかな風を受けながら航海は順調だった。


何処からともなく飛んできた一羽の海鳥が、羽休めの為だろうかマストの上にと舞い降りた。

うつむき加減なその様子は、まるで船上の様子を見つめているかのようだ。

丸い瞳は確実に船の上の有様を映し、羽毛に包まれた鼓膜は二人の会話を高みより捕らえていた。

海鳥はひかりの島に住む魔道士の移し身のひとつだった。

永劫の時を過ごす伝説の名もなき魔道士の。


闇の司祭がちらりと視線をマストに向けたあと、何もなかったかのように声を張り上げ会話を続ける。

「ときに船長、全ての始まりの詩について聞いたことはあるだろうか?」

「司祭様、輝石がどうのこうのってヤツのことですかい?」

「左様、正確には<世界の真理についての考察と推察>と言う名の小論の事なのだが」

「太古の賢人による推論が詩の形で伝承されているアレのことだ」

「この世界、つまりわしらが住む大陸や海洋、それらを包括するワクセイとギンガについての創生の物語だ」

「ワクセイとギンガって奴は何者ですかい?」

「この世界を乗せた場所とそれらの集まりの事だ」

「はぁ」

「まぁ理解できずとも、仕方なき事なのだが…」

「序章にある混沌とは、無数の塵つまりホコリのようなモノを指し示している。」

「無数無限のギンガが存在する以前の時間 無物なる虚空には粉塵が混沌と満ち溢れていた」

「わたしが聞いた詩とは、ずいぶん毛色が違う気がするんですが」

「今の世に伝わる詩は、太古の知恵を手直ししたもので、元もとの記述から随分と抜け落ちておるからな」

「そんなものですかねぇ」

船長はよくわからないまま大司祭の話を聞き続ける。

「やがて粉塵は 互いに引き合いながら集まりだし幾つかの力と流れに代わっていった その中でひときわ大きな力の固まりたちが 多くの集団を作り出し回転をしながらそれぞれの源となっていった」

「なんだか小難しいお話で、私なんぞにはさっぱりわかりませんです」

「そうだな、こんな益体もつかない話より中で、成功した時の褒美について話す事としよう」

「できれば、私もそのほうが」

船長は顔を綻ばせ相槌をした。


話を終えないうちに大司祭は何気ないそぶりでマストを見上げ、船長には理解できない古の言葉を呟きだす。

唱えられた言葉は漆黒の炎と化し、マストの上の鳥を直撃する。

あっという間に鳥は黒い炎に包まれ、二人の目の前にと落ちてきた。

驚く船長の目の前で鳥の姿はやがて白い布のようなものへと変り、灰も残さずに消え去ってしまった。


「これはいったい?」

驚いたままの船長に闇の大司祭は問いかける。

「ところで、名無しの魔導師について聞いた事は?」

「伝説の名もなき魔導師のことですかい?」

上ずったままで船長は応える。

「そうだ、あ奴 <Nameless > とかつて呼ばれていた者のことだ」



─ 光の島々 本島内 静寂の森 ─


奥深い森の中、古城の一室で溜め息が響く。

「どうかなされましたか?道士様?」

「いや何でもないのだよルナン、ただあの者はやはり7thの再来だとゆうことだけさ」

「7thですか?」

「そう、全ての始まりを託された七賢神の生まれ変わりがいたんだ。六番目の冥府の番人Arcがいたのさ」

白装束の若い青年は、小鳥のような少女に優しく応えた。


「そう、かつて冥府を守護していたアークは寡黙で控えめだったけど、この時代の彼は少し違うようだね」

「と、申しますと?」

紫の少女が無邪気に問いただす。

「器となるものによってだと思うけど、闇の帝国の司祭でもある彼はずいぶん野心家みたいだ。人というものは神とは違い欲望によって行動を起こすもののようだから」

「その彼が、Arcのバイタルフォースを操るとなると、やっかいなことだ」

言葉とは裏腹に青年はのんきな顔で応える。

「恐れ入りますが、そうゆう風には聞こえないのですが」

「いや、困っているさ、煩雑で時間が掛かりそうだからね」

「貴方様に時間などは、問題にならないでしょう」

「そうだったかな」

「そうでございます」

「ルナン、覚えておくがいい、周りから見て一瞬の出来事に見えても、当人にとっては気の長くなるほどの試行錯誤の繰り返しの場合もあることを」

「結果的にはさほど時間が進まなくても、そこまでに至るには何百年も掛かるかもしれないのだよ」

「普通の生きもの相手には、百年掛かったものを三ヶ月くらいに見せかけるズルをするのさ、相手は有限で短命だからね」

「そうすれば、時間的にそれだけで澄んじゃった事になるから」

「ルナン、キミにもいずれできるようになる、ボクと一緒に永劫の時を過ごしていけばね」

「そう願いたいものです」 少女は囀りのように微笑んだ。

「そもそもボク以外の賢神たちは創生の役目を終えた時点で、それぞれの地で眠りにつきバイタルフォースも精霊の元へと還元されたはずだったけど」

「リライブされた器に集約されつつあるみたいだ」

「貴方様はお眠りにつかなかったのですね」

「ボクには彼等のように創生の役目はなくて、その後の世界をただ見守るだけが役目だから、ボクはいわゆる歴史の目なのさ」

「ボクには彼等のような特質した力などはなくて、何もないただの隠居のようなものだよ」

「そんなことはございません、今まで起こした数々の奇跡などをみていればそんなお言葉は納得がいきません」

「ははは、それでも7thの端くれだから限りあるものとは少しだけ違うのさ。それに何も持たないという事は、全てを手にするかもしれないという意味もある。永劫に存在を続けていれば、自然に身につくものなのだよ、あの輝石のようにね」

白の青年と紫の少女の会話の間も刻一刻と闇の帝国の船は、呪われた島へと近づいていくのであった。



─ 二日後 バランナ海 海上 ─


季節柄、穏かな偏南風にのって、大陸の商船DD号の航海はつづいていた。

高く上った太陽が見下ろす船の一室で二人の男が内密な話を今日も続けている。

「…そろそろだな」重く低い声が話を断ち切る。

司祭の声に船長が問いただす。

「いきなり何のことですかい?司祭様」

アーク卿の低い声の変わりに、船内に張り巡らされている通話管が鳴り響いた。

『船長!右舷前方に島を発見!例の奴です!』

「と、ゆうことだ」

アーク卿はいかにもとゆう顔つきでこたえた。


「…それにしても、はやくついちまったもんだ」

思うより早くたどり着いたことに驚きを交えて船長がつぶやいた。

「何、彷徨える魂の呻きに導かれての航海だからな」

「彷徨える魂ですかい…大海に散っていた奴らの案内なんざぞっとしますがね」

然も、恐ろしげに船長がこたえる。


「死せる魂はたとえ彷徨っていても、生を無駄に過ごしている輩どもよりは親切なモノなのだよ。彼らは実に冷ややかに控えめで、物静かで素直なのだから」

愛でるような眼差しで静かく言葉がもれる。

「また、そんな見てきた様なことを」

半分引きつった笑いで船長は司祭に問いかけてみた。


「みる?感じるがふさわしき言葉だな。現にそなたの背後にもひとり、そなたと同じ顔の男が」

ぎろりと睨んだ眼が怪しく光る。

「…怖い事は言わないでくださいな、や、奴はもうとうに海の藻屑に…」

目線をそらし震える言葉をかえす。


「魂はそなたと共にあるということだ。彷徨うてるわけではなく、そなたを守るため」

「そんな…奴を見殺したも同然なあっしに…」

船長の言葉は途中で塞がれた。

通話管の第二報めが響いたからである。


『野郎ども、緊急停止だ!碇を!!船長、これ以上はやばいようです、船底を触る岩が増えてきちまって』

『ああ、わかった。全員配置についたまま待機!おって指示を出す』

船長は鳴り響く通話管に激をとばした。

「司祭様、如何いたしましょう?」
「何、この先も導きどおり進めばよい事、海底の岩に囚われたままの嘆く魂の呻きにな」

こまる様子もなくアーク卿の言葉が淡々と部屋に流れ落ちた。


「………、彷徨えるイースレスよ我が招きに応えよ」

不聞なつぶやきの後のアークの言葉に応えるかのように、船が大きく揺れた。

「司祭様!」

「案ずるな、死せる海獣の王の単なる返答だ。かの者の導きがあれば上陸など容易いことだ」

大きく手繰り寄せられる衝撃と、船体が圧迫されるような不気味な軋みが鳴る。

不可視の巨大な何かに絡め取られた船は、碇さえも引きちぎり引きずられるように海原を進み前方の切り立った壁にとひたすらに向かう。

近づくばかりのその絶望に恐怖した船長が声を上げた。

「座礁は免れてもこのまんまじゃ、壁にあたっちまう」

「心配は無用だ、クラークの奴はマーリスの配下の頃から粗暴ではあったが…」

「それにしてもこんな勢いじゃ船がもたねえ」

絡め取るその力と勢いよく引きずられる船は、白く波を切り立たせ軋みながら進んでゆく。

アークの若干の戸惑いと船長の諦めの中、船はその姿を波に沈めることなく切り立った壁にぽっかりと空いた入口のような穴にと吸い込まれることとなった。


​ ​