Category: 全知全能の使役師 バンズ(ファンタジー)  1/1

雨季のはじめに 5

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ヘキサは驚きながらもくり抜かれた窓から外へと出て行った。「先ずは様子でも」そう言いながら壁に向かい消え去るバンズの後に続きベアード王も同じく壁のむこうにと吸い込まれるように消えてった。薄暗い神殿の中、色とりどりの舞いの中人の形を象ったヘキサはゆっくりと明るい方向へと歩き出す。不敵な目つき整えられた顎鬚、バンズそのものだった。身に纏うのは古の召喚士の正装を独特なサッシュでとめ、ご丁寧に神殿奥に祀られ...

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雨季のはじめに 6

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がらんとしていたはずの神殿の入口にぽつぽつと人が集まりだしていた。ざわめく人々に向かい躊躇なく歩くヘキサ。未だその姿は忽然と現れた時のままのバンズそのものだった。入口の広々とした石段を登る。「おい!あんた、まだ障壁が…」誰かが叫んでいる。「ん?」声をかけられたヘキサは、丁度、衝撃を受けたところで立ち止まってしまう。激しい火花と音に包まれたまま、ただ立ちすくむヘキサ。「術を解除するのだ!神王の降臨じ...

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雨季のはじめに 7

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「ほら、神官長様、彼が歩いてきますよこちらに」「何をいっておるのだお前は!やや新王様は何処に?」バンズへのへんげを解いたヘキサは辺りを飛び回っていたが、その姿は神官長には見えなかった。「女の人なら変わらずに其処にいますけど…」妖霊の姿に戻ったヘキサの姿は今もなお、若者には相変わらず女性として映っているようだった。幾重もの重なり合う離れた異界から、バンズが歩きながら近づいてくる。そして、この世界つま...

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雨季のはじめに 8

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「畏まる事などないぞレクティス、さあ、もう立つこともできるだろう。その呼び名を何処で知り得たのか教えてくれ」「では、命のままに」そう言って若者は立ち上がり自分より少しばかり背の低い初老の男に対峙した。「使役師なる言葉はこの神殿で奉ってありますバンズ様の像の傍らに掘られた石版の言い伝えからであります。…それで…畏れながら願いがあるのでありますが…」少し言いにくそうにレクティスは、きりだした。「なんなり...

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雨季のはじめに 9

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「そもそもデュアルであることは、召喚の必要などないことなのだ。それは何時でも此処にある」バンズが言い放つ。 「あると言われても…何処にも…」辺りを見回すだけのレクティス。 「目を凝らせばレクティス様にもご覧になれます、貴方様にお使えするために幾色もの多くの精たちが控えている姿が」命を終えたヘキサがバンズの言葉に口を合わせた。 「招く必要などございません、ただ命を念ずれば良いのです」更に付け足すようにヘ...

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雨季のはじめに 10

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怪物が翼を広げ舞い上がる。神殿の広く高い天井をしばらく旋回したあとバンズたちを目にとめ、それは舞い降りた。「エンシェントドラゴン…」「この醜悪な姿、フロウリブスか!」ヘキサとベアードが次々と驚きのつぶやきをあげた。巨大な怪物は覗き込むように見下ろし、その埃臭いブレスまじりの声で語りだした。「ヘキサグラムを従えているとは、そちはバンズじゃな、バンズよ我が愛しの君は何処じゃ?」「フロウよ、父はもうこの...

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雨季のはじめに 11

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「マスター…また!」ヘキサがバンズを見つめ、こう叫んだ。「ああ、蟻のごとく集まってきたようだな」バンズは国境へと続く、今は乾ききった神殿前の湿原を眺めながらそう呟いた。「数は二千…いや三千弱か」皆がその声で遥か遠くの地平線を眺めると、砂埃を上げながら黒い染みが厚みを増してゆくのが見て取れた。「我の眠りを乱し我らが土地を汚すもの、私がただちに蹴散らしてまいります」レクティスが返事を返す暇もなく、古龍の...

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雨季のはじめに 1

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鬱蒼と茂る肉厚な剣葉樹と赤黒く湿った溶岩土の香りが微かに漂う一室で、バンズは今朝もくつろいでいた。くり抜いただけの簡素な窓から流れ込む風は、雨季の始まりにしては珍しく晴れあがっていることもあり爽やかなものだった。お気に入りの石づくりの椅子の背もたれは、ひんやりと心地よく遅めの朝食は意外に捗る感じで淡々と開けられていった。「マイマスター、お茶のおかわりはいかがですか?」下僕であり唯一のものである妖霊...

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雨季のはじめに 2

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見た目は質素である食事をゆったりと堪能したあと、バンズは部屋の隅で大人しく舞っていたヘキサグラムをまたも一瞥した。すぐさま食卓の上に並べられた漆器類はどこかに消され、食卓用の石の椅子もゆったりとしたソファーにと交換される。忙しげに魔導を遍く舞を舞い終えたあとヘキサは再び辛抱強くこの気難しく気まぐれな主人の次の命令を待ち続けることにした。そんな様子を気にすることもなくバンズは、いつも羽織っている召喚...

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雨季のはじめに 3

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「ところで贈り物の具合を確認しにきたわけじゃないだろ?ベアード?」「まあ、それもある、むろん他もある。…時に今回の石の華は出来が悪くなりそうだと云う話だ」ベアードと呼ばれた精霊は曖昧にのんびりと応えた。世界の均衡が崩れぬ限りほぼ無限の寿命を持つ精霊の王たちは遠回りな話し方をすることが多い。だが、同じく使役する妖霊の力を用いて寿命などの概念から解き放たれているバンズにとっても話の本筋など急ぐこともな...

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雨季のはじめに 4

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「お前が人の子と云う事は置いといて今の情勢を見せてやろう」ベアードがそう言った途端、前触れもなく巨大な黒曜石の石版がテーブルの脇に出現した。艶やかに磨かれた平らな表面は精霊の力によるものだろうか、呪文や詠唱も使わずに現れたそれは向かいあって座していた二人の王の姿をくっきりと映し出している。「これが今のお前の国の姿だ」そう指さした石の表面に東方の古の帝国の景観が映し出される。それは瓦礫の山が連なる無...

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雨季のはじめに 12

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事の成り行きを心配そうに見ていた神官の一人にバンズは問いただした。「時に、先ほどの結界はまだ張れるのか?」「もちろんです、神…使役師様」「神殿の周囲全体だと、どうなのだ?」「そうなりますと僅かな時間だけになってしまいます…」「そうゆうことだ、雷獣よ!派手にやれ」バンズが何者かにそう命ずると、にわかに空は黒い雲に覆われ始める。風が巻き起こり激しく吹き付け、雨さえも降り出した。「あとからあとから湧いてく...

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雨季のはじめに 13

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あたかも津波のごとく押し寄せるそれは神殿さえも飲み尽くし、湿地帯であった目下に広がる光景を濁った波の悪夢へと変えてゆく。流石にこの力に逆らうこともできず、黒い消しがたい染みであった軍勢も一つ残らず飲み込まれ驚異は去ったかのように思えた。但し多くの犠牲を伴ってのことなのだが。大きな堪えがたき一波が辺りを根本的に変え、その怒りの流れがようやく静まりかけた頃。気兼ねなく気ままにのたうち回る新たなる大河は...

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月の魚 1 (小説 全知全能の使役師 バンズ)

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気配に目覚めたヘキサに、有無も言わせない言葉がかかる。「行くぞ!」窓外には長いローブを羽織い遠ざかるバンズの背中が月明かりに照らされていた。「はいマスター、ただ今すぐに」そう言って飛び出したヘキサグラムの眼前には、延々と広がる淡く黄ばんだ荒涼たる砂漠があった。よく見れば白いローブ姿の彼女の主人は、月明かりなどではなく闇の中、天空に輝く見たこともない蒼い輝きに照らされ、漣の如くその背中をを揺らめかせ...

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月の魚 2 (小説 全知全能の使役師 バンズ)

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此処は何処?との疑問がヘキサは消し去ることができなかった。羽ばたけば羽ばたく程うまく飛べないことや、あるじの歩く足元の砂が舞い上がったまま中々落ないこと、何よりも希薄で刺すような寒さを抱く大気。むろん、魔導力を根源にするヘキサが移動するのにそんなものは関係なくもあったのだが。遠く離れていようが異世界にいようが、あるじの叱責は絶え間なく伝わり、気まぐれですべてを知るあるじに付いての見知らぬ土地への冒...

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月の魚 3 (小説 全知全能の使役師 バンズ)

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「昔、娘をかけて賭けをしたことがあってな」バンズが話す。何の話だろう それにマスターには娘などいないのに…いつのまにとヘキサは思った。「娘のフィーネをくれてやると、海原の女王に言われてな。月の魚の伝説の真偽についてなのだが」「海原の女王と言いますと、七大精霊のひとりシレーニ様のことですか?」「むろんそうに決まっておる。あやつが言うには、『伝説のように満月の晩に月明かりに照らされた波間に月の魚が現れ...

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月の魚 4 (小説 全知全能の使役師 バンズ)

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キラキラと光る一雫にも似た糸が波間を滑るように移動する。「そう、月の動きに合わせ、場所を変え続けているのだ」あるじの言葉に納得したようにヘキサはそれを眺め続ける。やがて月明かりに照らせれ続く明るい波間に、波よりも強い輝きのものが跳ねだした。「マスター、何かが掛かっています」ヘキサが声をあげる。跳ね続ける輝きは月の動きに引きずられるように波間を移りゆく。ヘキサが見守るそれは、今にも釣り上げられそうな...

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凍らぬ港 1 (小説 全知全能の使役師 バンズ)

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「マスター大変です、香り茶のストックがもう!」ばたばたと飛び回るヘキサグラムを眺め、バンズがため息をつく。「そんなことは、とうにわかっている。出かけるぞヘキサ外套を用意しろ、外は寒いからな」「えっ?」気が付けばいつもの部屋は趣がすっかり変わっていた。そして、自分自身もいつの間にか人化していることにヘキサは驚いた。「マスター?これは…」事情がよく飲み込めないヘキサグラムは主(あるじ)に問いただす。「...

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凍らぬ港 2 (小説 全知全能の使役師 バンズ)

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広い屋敷のこれまた広い敷地を抜け、馬車が街道らしき道を進んでゆく。立ち並ぶ木々の先に大きな山が煙をあげそびえ立っているのが見えた。「マス…伯爵様、ここは一体?」マスターと言いかけたヘキサを伯爵はじろりと睨んだ。そしていつものように尊大な口調で答えを返す。「愚か者め、そなたも何度も来ておるだろう。此処は、ヴォルカノスインテラムのラクスノンドゥラートス自治領だ」「お言葉ですけど、ラクスノンドゥラートス...

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