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その国のその年の冬はいつになく厳しいものだった。縦に長く伸びた島国ならではの季節感からなのか、他国ではとうに忘れ去られた自然への馴染みなのか。
データ的に僅かに変動した死者数。凍死者数の微々たる増加に、ごく一部の者たちが不安を感じ始めていた。それが顕になりこの星の人々が異常に気付き始めたのは、かの大国ウサが数年前までの世界規模の気温上昇から徐々に気温低下の傾向に変わったと報道し始めたからだった。例の島国ヒボンでもその国特有の怪しげな予言の言葉が広がり始めていた。


<ヒボン首都アズマ 三流雑誌の編集室>


天は遠ざかってしまったのだ
民の心離れ、政の混迷、これらのことによりやがて天そのものがお隠れになってしまうだろう
闇が深まり地獄に目を付けられる
決して振り向くことのなかった、地獄に…


「なんすか?これ」記者らしき若い男が、一つの文章に目を通して声をあげた。
「いま流行りの宗教家の予言だよ」
「こんな戯言の何処がネタになるんすか?編集長?」
「確かに戯言かもしれないが、数年前までの気温上昇が一転し下降になっているのは事実だ。それに観測のデータからも僅かばかり太陽の距離が離れていってるらしい。もっともそれについては誤差の範囲みたいだがな」
「それがなんすか?」
「離れてゆく太陽、遠ざかってゆく天。共通してると思わないか?」
「これって、いつものこじ付けっすよね。それもごり押しの…」
「それだけじゃない。この文の一節の[決して振り向くことのなかった地獄]…これが月の事だったら…」
「確かにおっ月様は、いつも同じ面しか見えないってのはあるようですが」
「古来より月は太陽と反対の意味に例えらる事は多く、天に対して黄泉、つまり地獄に例えられることもある」
「そうも言われてますけど…」
「…それを裏付ける古い公文書があるとしたらどうだ?記事になるだろう?」
「…公文書ですか…」
「かの大国のやつだよ。五十年前の極秘公文書の内容をとある手から入手したのさ」
「それこそ眉唾物なんじゃないんすか?」
「抹消されたはずのその文書にはこう書かれていたと…月は死の星ではなく生きた化け物だと、巨大な生物そのもので裏には不気味な閉じた目がついていると」
「………」
「闇が深まり地獄に目を付けられる、決して振り向くことのなかった、地獄に…」
「もし仮にこの気温下降が続いて太陽そのものに大きな変化が訪れて今まで見れなかった裏側に巨大な目があったとしたら?こいつはすごい特ダネになるだろう?」
「ぞっとしますねそんなことになったら…」
「そんな真実の可能性を記事にするんだ資料の写真は用意してある。来週の内の本にこれをぶち込んでくれ」
「はいはいわかりました。あまり気乗りはしなっすけどね」

こうして小さな島国からの些細な警告は発せられることとなったが、それを目にしたものはあまりに少なく、これから訪れるであろう暗い未来に対処するものとはならなかったのである。








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