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「…そうしてカミサマは、敬虔なる聖者の願いを聞き届けられ、かくして世界に蔓延っていた邪悪なる人と云うものを片隅に追いやり、純粋に生きるだけの魔物を世界の覇者として据えられました」

…これは母の声のような気がする

「えーっ、そんなのずるいよ、だって聖者様は争いのない世界を願ったのでしょ?」

…こっちは妹のリアだ


そうだこの時から思ったんだボクは。

そんな不公平なカミなど滅ぼしてしまえばいいのだと。

世界を我が物顔で闊歩する魔物どもを残らず駆逐したあとに…。



朝。

憂鬱な目覚め。

世界は未だ魔物に溢れている。


工房の片隅のボクの寝床にも、そんな青褪めた朝日が差し込む。

『マスターお目覚めですか?』

リアが冷ややかな面持ちでボクに声をかける。

「ああ、そうだリア、出発だ。ボクたちの旅は今から始まる」

『イエッサー』

魔道人形であるリアよりも冷たい双眸でボクは応え、この住み慣れた場所からささやかな一歩を踏み出した。


「では、お世話になりました」

それでもと思い、数少ない工房のみんなに挨拶を交わす。

「そいつの調整はまだ完璧にすんじゃいないが、人形師としても魔道士としても優秀なお前なら大丈夫だろう」

「リア、小僧を頼むぞ」

「ベイル、一応手紙は送ってはあるが奴は変わり者だから用心することだな」

それぞれがそれぞれの思いで、工房の仲間であったボクと、工房の傑作品であるリアに挨拶を交わす。

魔道人形とは呼びがたいほどの学習性と運動能力を備えたリアは、ボクの発案で通常の戦士を補佐するものではなく、戦士そのものだ。

魔導操作と自己学習による戦士型魔道人形と云う訳だ。

人形の核となる五つの魔核は、学園時代での知り合いである或る賢者の生成したもので、基本となる学びの魔核と動きの魔核が主軸となり構成されている。

後の三つは通常の人形と同じで魔道を貯めることのできる魔核だ。

賢者クラスになることで厳しい戒律に縛られることを畏れたボクは、賢者クラスにしかできない魔核の生成を同期のよしみで頼み込んだ。

見返りとして工房で働く傍らに自分で組み上げた今のリアのもととなる試作品を、惜しげもなくあげたから報酬としては十分だろう。

試作品は無骨で少しばかり鈍重なものだったが、工房の製品として改良開発を続けたおかげで小型化と機動性があがった。

それに、一身上の都合と言って工房を去ろうとするボクに、みんなは快くはなむけをくれた。

ある者は秘蔵の人形の内部カラクリを、あるものはリアを魔法剣士に育てるべく剣士の知り合いに紹介状を。

そして何よりも工房からは製品一号機であるこのリアを。

人形師としては何の知識も持たなかった魔道学園中退者だったこのボクにである。

万感の思いを胸に秘めボクは工房に背を向ける。

大いなる夢、世界を魔物の手から取り戻しこんな身勝手な世界を作り出したカミとやらに一撃を打ち込むために。





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七年間せわになったグレミア工房のあるネオフロンティアは大陸の南、平原地帯が広がるロストにある都市国家の一つだ。

各種の魔具の工房が多く大陸中に点在する居住可能な都市へ多くの魔具を搬出している。

東は辺境の島国パンジャから西の大国クロスキングダムまで、人が住む都市や国家の全てを相手にしている。

創世の時代に大陸の覇者から追い落とされた人類は、大陸全土の大半を占める山岳地帯や森林からの魔物に怯えながらも勇気なるツルギと大いなる魔道によって少しづつ領土を取り戻し、それぞれの地にて栄え始めている。

それでも総人口の割合からは、魔物に対抗する戦士や魔道士、それを補助する僧侶やシーフなどの絶対数は少ない。

それらを補うために各地では育成を支援する学園や団体、それぞれのギルドなどは存在しているが歴史も浅く、あまりにも離れ点在している人類が共同戦線を組み魔物に対抗するまでには至っていないのが現状らしかった。

そんな混迷な時代ゆえに隠れた戦士や名も売れていない魔道士が地方にいることも確かなのだが。

ボク自身は体力的な問題もあり戦士の養成所に進む道は閉ざされていたのだが、故郷であるネオフロンティアから遠く離れたクロスキングダムの魔道学園に入ることで戦いの道に躍り出ることできるはずだった。

しかし、現実はそんな夢などとは程遠く、貴重な上級魔道士やその上の賢者などは各国家の威厳を保つお飾りの物に過ぎず、それでいて大陸全土に張り巡らされた各ギルドの利権のための道具としてそれぞれに縛られるものだった。

ギルドは貴重なるそれらを各国家に法外な価格で貸し付けることによって自らを肥やし、国家は高価なそのお飾りを魔物との戦いに無駄に費やすこともなく、実際多くの戦士や剣士による魔物との戦いには、各工房の魔具や魔道士崩れなどに頼ることが多かった。

安定した国家群は、もはや魔物から領土を取り返す気などさらさらなく、受け継いだ祖先からの財産を守ることだけに執着していた。

入った学園も外での評判とは裏腹に内情はそれと同じで上級魔道士や賢者を目指す大半のものは、将来的な名声と高額な報酬目当てであり、残りは王族の習い事のために子息が仕方なく学んでいるのが普通だった。

晴れて上級魔導クラスを極めたものは、証書がわりのギルドメンバー入りが約束されており更にその上の賢者を目指すものはそれだけで賢者ギルドのメンバーとなる。

束縛と安易な未来を畏れたボクは、実質の上級魔導をほぼ羅網したあと僧侶クラスにと編入し全てのカリキュラムをこなしてから学園を去ることにした。

つまり上級魔道士の魔導の大半を極め神官クラスの詠唱をとなえることもできるが、肩書きとしては巷に溢れる次級魔道士であり、どの場所にもある教会の宣教師クラスである聖僧侶にしか過ぎない。

今では大陸中に名を轟かす有名工房の人形師としての肩書きの方が通用するくらいだったのだ。




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「さてリア、マルスさんには悪いけど紹介先のフィフラス公国へ向かう前に、姫のところに寄ってくことにするから」

『イエス、マスター、マスターの思うがままに』

マルスさんは工房での大先輩であり、盟友でもあるデュロスにも引き合わせてくれた顔の広い人物だ。

歳の割には気さくで職人気質でもあるが、素人のボクにとても良くしてくれた。

工房での作業の役に立つからと言われ偏屈な若き天才人形師であるデュロスの奴のもとにボクを連れ出してくれたのもそのひとつだ。

故郷の主要産業とは言えもともと工房や魔具などに興味もなかったボクは、当初仕事にも馴染めず相談相手もなく慣れない作業に悩んでいた。

そんなどちらかと言えば引きこもりなボクを、似たような奴がいるからと言ってデュロスのねぐらにとわざわざ馬車まで使い同伴してくれた。

その時のことは今でも覚えている。

最初の時の奴は、このボクに目も向けずマルスさんにばかり話しかけていたからだった。




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今では盟友のデュロスの住んでいる場所は、聞いた通りのねぐらと呼ぶのにふさわしい場所だった。

倉庫とも言える大きな建物の場所で降りたったボクたちは(正確に言えばボクだけであったが…)その工房にも匹敵するほどの大きさの建物をぽかんとしたまま見上げるだけだった。

マルスさんといえばそんなものは見慣れているとゆうふうに、扉に書かれた立ち入り禁止の文字など目にもせず、ボクを置いてきぼりにしながらも中にと入ってゆく。

「デュロス生きてるか?入るぞ」

ボクは既に中に入り込んでしまっているマルスさんに習い、恐る恐るその背中の影に隠れてるばかりだった。


「入口の文字が見えなかったのか!関係者以外お断りだよ。早くでて行かないと魔道人形の手によってつまみ出すぞ」

不機嫌そうな若い声が返事を返す。

「なんだ、居るなら出てこいよ。新型が完成したのならわしにも見せてくれ、その腕のついた奴を」

平気な顔で受け答えするマルスさんの背中でボクは事の成り行きを見守るばかりだった。

「脅しじゃないんだぜ………、なんだ親父さんか」

不機嫌な調子の声は変わらなかったが、奥から出てきた僕と同じくらいの若者の顔には笑みが浮かんでいた。


「…あのボクは…」

「親父さんならしょうがねえな、新型は腕だけ組みあがってまだ脚までは行きそうもないからまだ見せられるほどじゃないよ」

意を決して自己紹介をしようとしたボクはあっさりと無視されて、若者はマルスさんに話しかけるばかりだった。

「デュロス、相変わらずだな、わしから紹介しよう。こっちの若いのはベイルゼーブといって、うちの工房のルーキーだ」

「親父さんもしってるだろ?俺は人なんかに興味がないって」

マルスさんのそんな言葉にもこちらを見向きもしないで若者は応える。

魔道学園時代に各国から集まったいろんな奴らを見ていたボクにも、こいつがとびきりの変わり者だとゆうことが頷けた。

「まあ、そうゆうなよ、こいつは確かにうちの工房じゃあヒヨっ子だが、元はあの有名なクロスキングダムの魔道学園の出身だぞ」


その一言で目の色が変わった若者は、ボクに掴みかかり興奮した様子で話しかけてきた。

「お前、賢者なのか?」

「いや、違うけど…」

ボクを掴んだままで目の前の若者は、がっくりと首を落とした。

「…肩書きは次級だけど、上級魔法はなんでも使えるし詠唱なら神官クラスで。………それに仲の良かった知り合いは賢者になったはずだけど」

「魔核の生成をそいつに頼めるか?」

どうやら最後に付け足した言葉に反応したのか再びボクを見つめ若者が問いてくる。

その迫力に負けたボクは、思わず言ってしまう。

「多分頼み込めば…あいつなら、はいよって軽くやってくれる気がするけど…多分…」

「そうか!…いや、取り敢えず上級魔道が使えるなら…。俺はデュロス、グレミア工房の房外職人だ、今日の出会いを俺はカミに感謝する」

「そんなところも相変わらずだな、小僧を置いてゆくからこれからはお前が時々面倒を見てくれ」

そしてボクはこの変人と知り合いになり、人形師としての生活が一変することとなった。





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取り残されたボクはデュロスと呼ばれた若者に付いてゆき、そのねぐらとも言える建物の奥に案内された。

工房と同じく様々な道具が雑多に置かれ多くの魔具が乱雑に積み上げられた倉庫のような広場の片隅にそれはあった。

「ああー、呼びやすくベイルでいいかな?、俺はイニシャルのディ(D)でいいから」

その言葉に、よく工房であがるディとゆう言葉や部品に刻まれたDとゆう文字が、目の前の若い男だと云うことにボクは思い立った。


「見ての通り今、新しい魔道人形を組み上げている。…そうだ、お前が思ったとおりこれは人型魔具じゃなく言葉通りの魔導で動く人形だ」

ボクの思ったことがわかったのか、にやりと笑ったディはそう告げた。


「工房での仕事の傍ら俺は、将来的には魔道士人形を目指し研究してるんだ」


その言葉は衝撃的だった。

自分と似たような事を考えている男がここにいた。

暫くその途方もない考えに驚いたままのボクは、黙り込んでしまった。

「おいおい、莫迦げた話だと思うなよ、工房には俺の創った目や手があっただろう、それに…」

肩をすくめ諭すようなディの言葉を遮って、ボクは口を開いた。

「ごめん、莫迦げた考えだなんて思ってないよ、おんなじことを考えてる奴が此処にいたと思って…」

今度はディの方が目を見開いた。


「ボクは戦士になりたかったんだ…でも、それは叶わない夢で…魔物の奴らを倒すために…だから学園に…」

万感の思いでボクはポツリポツリと語りだす。

「いいから続けろ、ベイル」

ディが静かに言う。

「だから賢者を目指して…でも、今の世界は…魔物なんか倒す気がなくて…賢者はただの大国のお飾りで、賢者ギルドは金儲けばかりで、だから…」

「だから…パンジャの戦士みたいに…、魔道士のボクのための戦士を…魔導人形の戦士を…」

「………」

ディはボクの言葉を最後まで聞いてくれた。

そしてディは話し出した。

「魔導で動く人形を作るためには、お前も知ってるように魔核が必要だ。工房のために色んな魔具を開発した俺には、資金はあるがツテがない。他と同じように魔核をギルドに頼んでも、お前の言うとおり金をいくら積んでも、もったいぶるのさ」

「そのことだけど、正直聞いてみないとわからないんだ本当は…」

申し訳なく思ったボクは、正直なところを話してみた。


「まっ、そんなことだろうと思ったぜ、でも、お前が魔道士なら術式は組めるだろ?魔核はあるんだ、数少ないけどな。それだけで十分だ」

そう言ったあとディは、ねぐらの中から椅子を掘り起こし、ボクに腰掛けるよう勧めてくれた。




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そうして始まった新しい日々は、実り多いものであった。

工房での仕事の合間、幾度の試行錯誤を繰り返した上で五年の月日を費やし魔道人形の試作品をボクたちは作り出したのだ。

工房に持込み調整を進めた結果それは、新たな人型魔具として採用され工房の名を大いに高めることとなった。

魔核の件も例の学園での友人にそれを無償で渡すことによって確保することができ、工房としても多くの魔導人形を作り出すことになり、その成果と貢献度によってボク自身も、自らの戦士人形のための魔導の術式の研究に時間が割けるようにまでに至った。

そして改良を加えられ小型化し続ける工房の人形をもとに更に二年の月日を費やしてリアが組みあがったのだ。

基本設計はディ、戦士としての基本の動きを司る魔道の術式はボクによって。

それは、これまでの幾つもの魔道人形のようにDとベイルと刻まれ、グレミア工房の製品として世に送り出されることになるだろう。

ボクはいつか戻ることを約束して工房のみんなに別れを告げる。

そして、今日の一歩を進めてくれた約束を果たすために、学園での友人であったピクミー族の姫のもとに、先ずは向かうことにしたのだ。


『姫様、何処にいる?』

街道を進む馬車の中、魔石の瞳を向けリアが問う。

「ググなら、グレイトバーストにいるらしい。お前の兄さんであるグレムと一緒に」

『グレイトバースト グレム 兄さん』

まるで、ボクの言葉を噛み締めるかのように、外の景色を眺めながらリアはそれらを繰り返した。 




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... 続きを読む
「グランド様、いい加減にしてくれませんか?」

揺れる馬車の中、はしゃいだようにあちこち見回す向かいの少年が不意に声を上げる。

少年とは言っても人ではなく人形で、グレムかドリムのどちらかなのだろうが。

主格である魔核が決まっているものが一般的にグレム(魔道人形)と呼ばれるものだが、横に座らされているドリムたちにしても主格のない今の状態ならともかく、主格の魔核を入れて変化(へんげ)の術式を発動されてしまえば、人形士である私にも区別はつかない。

ましてや、それを区別する術式なども、あれほど苦労して学んだ学園での魔道術学にもなかったはずだ。

「ねえ、ベイル。何を言ってるの?」

先日ギルドでの諮問とは名ばかりの懲罰の場での出来事なども思いだし、この不可解な少年の姿の人形に私は問いかけて見ることにした。

「いい加減にしませんと、この身体リセットしてしまいますよ」

私の問に応えることもなく、少年は落ち着きなく周囲を見回したまま、不自然な問答を独り言のようにつぶやき続ける。

「ベイル!ベイル・ゼーブ?私がやるわ…リセット!!」

この奇妙な問答に耐え切れなくなったせいもあるが、主格真核の術式の破損もあるかもと思った私は、リセットの術式を少年に向けて描いた。

少年であった人形は、残りの人形と同じく同様に黙り込んでしまう。

個性の抜けた虚ろな姿で、目の前の少年がドリムだったと判明した。

そんな疑問のことより人形士として術者としての性から、排出された魔核の術式を紐解こうとした私は、それが二つあることに気づく。

「…ありえない」

私の漏らした言葉に応えるかのように、術式が詠唱された。

<転生・リブート><リブート>

目の前のドリムの虚ろな瞳に再び光が宿り、そして同様にとなりのドリムにもそれは伺えた。

信じられない姿で現れた魔核達は、驚いたことにそれぞれ自らを再起動したのであった。


「全くいい加減にしてもらいたいです、おふざけもほどほどにしていただかないと、我ながら毎回こうでは困ります」

「少しばかりの余興じゃよ、年寄りのことだと思い大目にしてくれぬとな、我ながらお前は真面目すぎる」

意味不明な会話を始めたドリムたちに、私はさらに混乱した。

見た目は少年と老人の二体はまた、私を無視して言い争いを始める。

「とにかく説明しなさいよ!ベイル?どうゆうことなの?」

ふたりの声よりも大きく叫んだ私の声はそれなりに効果があったようだ。

「つまりですね…」「…わしから説明を」

二人同時に返事がかえる。


「ですから、ミミが混乱しますから、グランド様は少々黙っていてください!」

「わしも、ベイルなのじゃが…」

少年がじろりと睨むと横の老人が、ようやく口を閉じた。


「失礼しましたレディ・ミミ、ボクから説明しますね」

「あなたの横に座ってるご老体は、グランド・ベイル・ゼーブ様、我ら魔具士ギルドの創設者の一人だった人物の主格です、先日も名乗りましたが私はベイル・ゼーブ、そのご老体が自らの仕事を放棄するために創った、若き日のご自分をトレースした主格なのです」

取り敢えず私は少年の話に頷いた。

頷いたけど理解なんかできなかった。



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目の前の少年は、よくわからない存在だ。

ギルドでの諮問を免れたのもある意味彼のおかげであるし、そのあと連れてゆかれたギルドの最高顧問と呼ばれる人物の部屋にても、待ち受けていたのはこの少年だった。

もっとも最高顧問と呼ばれる人物が、身体を持たない魔核のようなものであったのだから、身体となるものの姿をしていた彼が代わりにでむかえるしかなかったのだろう。

しかし、グランドの名を持って紹介されたそれが、私の思念に直接語りかけてはきたのだから、必要もなかったのかもしれないが。

その直接語りかけてきたものは、今は叱られたことも忘れたかのように、私の横で再び辺りを興味深かげに見渡している。

先ほどの少年の言葉が本当のことなら隣の人物はそれにあたるはずだ。

確かに二人ともにひとではなく、ドリムを象る主核なのか?。

本来は、農夫ならば農夫の特質をもちその細やかなる知識と能力で、労働に従事し購入者を手助ける存在にしか過ぎないはずなのだが…。

工房で売り出しているドリムは、名前など持たないはずだった。

それほどの個性も個別の違いもあるはずがないのだ。

農夫のドリムは農夫のドリムでしかなく、個性や違いなど買われた環境での扱いから差がつく程度だ。

教わったことを覚え、それに基づいて行動するしかないドリムに差異など出るはずもなく、よくできた召使、悪く言えば奴隷のようなものだ。

長きに渡って根気よく物事を教え込んだとしても、購入者であるその農夫そのものになれるはずもないのだ。

その農夫の個性そのものを焼き付けないかぎり。

それまでの人生の記憶、それに基づいた言動、個性の証の容姿と身体的な作りや能力。

いったい幾つもの術式を描けばよいのだろう。

それらをどうまとめ、魔核どおしを結びつければよいのだろう。

初めからそう作られたグレムではなく、あまりにも自由度の高いドリムによって成し遂げられていることが信じられなかった。


「二人とも器としてはドリムですよね?どうやって…」

リセットの魔道の際にわかったはずのことを聞いてしまった。

「先ほど見ての通りじゃ、中の主核は儂自身をエッセンティアスキャンしたものとなるな」

「本質を捜査した…とゆうことですか?」

「個性や記憶とかをな」

聞いたこともない術式、途方もない意味合いを含んだ言葉、私の理解を超えている。


「主にもわかるように、そのために主を作り出してみせようかの」

そういった老人の手には、新たなる主格と思われる魔核らしきものが浮かび上がっていた。

そしてそれは、向かいに座っていたはずのもう一体のドリムを私にと変えた。



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いつのまにと私は思ったが、諮問での命により旅立つことになった今朝の出来事を思い出した。

「君に逃亡の意思などはないとは思うけど念の為にスキャンをかけてもいいかな?」

そう、ベイルが言ったことを。

特にその気もなく装備や持ち物もありふれていた物であった私は意義を唱えることもしなかった。

移動の為に用意したドリムである馬たちや馬車についての申し出ならばそれなりに断ったのかもしれないが。

目の前の私が私にスキャンをかけるのを感じた。

今朝までの私ならばそうしたであろう。

目の前の存在が見た目通りのものかを判断するために。

覚醒したばかりであるはずの私ならば事実を確かめたくなるはずだから。

「どうゆうこと?説明してくれるかな?」

ここにいる私自身への目の前の私からの質問だ。

自分ゆえに敬語でさえなかったが。


「私を調べて自らも調べたなら、その通りだわ。私はオリジナル、あなたは私の複製ね今朝までの私の…」

その時に私はある可能性までを思い浮かべてしまう。

「つまりグランド、あなたには私をいくつでも造れてしまうって事かしら?」

「主の危惧するようなことは儂にはするつもりがない、ある男のように主たちを囲って楽しむ趣味もないわけだ。単にさみしがり屋の老人の趣味じゃよ、話し相手を増やしたいと願うな」

「どうやら、私には自由意思があるようだし、黙って変なことをされるなんてのはありえないわ。術式を描けばそれなりの魔道も使えるようだし例えドリムであってもね」

ドリムの私は随分と冷静なようだ。

客観的にみれば私はこうなのだろう、今の私と同様内心ではどきどきしていたとしても。

「先ずは区別が必要ね、存在してしまった限り例えドリムの身であっても消されたくはないわ。ドリムであるミミ、ミリムとでも呼んでちょうだい」

我ながら主張が激しいものだ。

同じオリジナルといえども寸分も違わないだろうミリムでさえもこうなのだから、グランドとベイルでは別人なのかもしれない。

「わかったわミリム、これからよろしくね」

「こちらこそ」

「どうやら、ほんの余興のつもりじゃったが、このままミリムとして旅の道連れが増えるようになったようじゃな」

グランドの無責任な発言に、私とミリムが抗議の眼差しをむけたのは言うまでもない。

「はあ…、ギルドの命を果たすためにドリムたちを用意したと思っていましたが、あとはご自分で用意して下さいよ」

ベイルが呆れたようにグランドに向かいぼやいた。

「街につけば工房の一つもあるじゃろう、主たちが宿を決める間、用意しとけばいいのじゃな?」

老人はこともなげに応える。

そもそも高価で希少なドリムがこの先の小さな街であるのかは、疑問であったが不可能ではないのだろう。

幾つもの摩訶不思議な出来事をあっさりと行えるこの老人には。

先程までの出来事を体験していないミリムは不審な目つきで見ているばかりではあったが。





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「取り敢えずここに致しましょう」

街につき、そう多くない住居を見渡して宿の前でベイルが言った。

「ここの他に宿なんてないみたいね」

ベイルとミリムが云うとうり、宿らしきものはこのちいさな街ので他に見当たらなかった。

ギルドからの、いやグランドからの要望の案件の最初の場所は、この先の村らしいのだがそこには宿すらなく、多分、彼なら宿代わりに使えるであろうギルドの支部もないらしい。

「人が揃うまで腹ごしらえでもしない?」

肝心のグランドがいないため、私たちは泊まる部屋などは後回しにしてミリムの提案通り食事のできそうな宿の中にあった食堂に向かった。

見た目は人と違いのわからないミリムの発言に私は、その言葉の持つ違和感に直ぐには気付けなかった。

昼時で人の賑わっていた食堂で空いている卓席に座った私たちは、宿の者らしき男に声をかけられる。

「食事なら今日の昼はシーヴァカウン(森林魔牛)の腰肉のスープだ。飲み物なら草茶か麦酒のどちらかだ。代金は泊まりの部屋代と一緒でいい」

男の言葉にベイルが応える。

「じゃあ、そのスープと草茶で」

そして何故かベイルの隣に腰掛けたミリムも答えた。

「私も彼と同じものを」

昨日からの目まぐるしい展開に食欲のない私は、草茶だけを頼む。

席は当然のように向かい側だったが。

ほどなくして卓の上に並べられたものをベイルが普通に食べ始めるとミリムがその口元を見つめながら問かける。

「ねえ、ベイル、私たちの口にしたものはどうなるの?」

その言葉に、ドリムである彼らが食事をとることの不可思議さに、私はようやく気づいたのだった。

「グリム(魔道人形)の動力源は主に魔石とかに集約された魔道の力だとゆうことは知っていますよね。ドリムも同じです。魔石と言ってもそれらを束ねた魔核ですが、もちろん魔核を口から摂取するのではなく魔道力をを術式などで補填するわけです。ですが凡庸型のドリムでは、普通に食べ物から摂取します。口から食べることによって」

私の表情に気づいたのか、ベイルが私の方をみながら説明を始める。

「へえ、だから私もお腹がすいたりするんだ」

ミリムが説明とは違う質問を始める。

何が言いたいいのだろう…

それとも、何を聞きたいのか…

相変わらずミリムはベイルに寄り添いながら、彼の方ばかり見つめている。

その媚びるような姿に私は、たとえようのない小さなものを感じ始めていた。

「それは、普通はありません。量的には平均の食事を与えさえすれば働き、少なければ働かない、活動が困難になるとゆうことですけど」

「ボクもグランドも、…それとミリム貴女も、グランドが特別に用意した制約された凡庸ではないドリムですから、オリジナルの主格と同じようにいろんな欲もわき食物も食べることになります。面倒ですけどね」

私にはベイルの答えが、ミリムの最初の質問の答えにはなってない気がして、更には私の中の小さなものが少しづつ大きくなってゆくことさえ感じ始めていた。




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かつて、この大陸に乱立していた都市国家群を、帝国が併合し始めてから九百年あまりの歳月が流れていた。

常人には窺い知れぬ異力を持ち、その力によって操られる魔道人形を駆使する稀有な部族を取り込んだ帝国は、その圧倒的な武力によって加速度的に大陸の大半を支配することとなった。

しかし一方で、その長い支配の年月により停滞と退廃と云う避けられぬ病に冒された帝国は、その広すぎる己の内部に多くの問題を抱えることとなっていた。

更にその長き支配の反発とは別に、新たなる見なれぬ脅威が大陸の片隅に生まれたことに、気付くことができなかった。


そしてその脅威は知らぬ間に帝国にと入り込み、帝国を内から滅ぼそうと画策し、まさに王都を目指し始めていた。


「さて、どうしたものかね」

その一見優しげな男は、帝国の南の国境を少しばかり過ぎた街道の分かれ道で悩んでいた。

この辺りは帝国でもはずれにあたり、行き先を示すはずの導も長き年月で朽ち、文字すらも判別できなかったからだ。

二股に分かれたそれぞれの道は、曲がりくねり深く生い茂った木立に紛れ、何処に通ずるのかもそこからは判別できない。

「仕方ない…」

しばらく思案をしたあと男は、手を天に掲げ何事かを念じようとした。

「何をしてるの?冥府の都ならこっちじゃないわ、こっちは古びた祭殿があるだけだから」

不意に一方の道から一人の少女が現れ、男に声をかけてきた。

そう言った少女はしげしげと男を見つめている。

「あっ、ありがとう。余計な手間をかけずに済んで助かったよ、お嬢さん」

男がちらりと下を気にしながら少女に笑顔で礼を述べると、今度は少女を呼んでるらしき叫びが道の奥と思われる場所から聞こえた。

「ググ!早くしないと祭事に間に合わないよ、またお館様に!」

「わかったわ、イル」

呼ぶ声にそう答え、男に会釈をし少女が走り去る。

その姿が消えるのを待っていたあとで男は、顔に貼り付けた笑顔を剥がし俯いてつぶやくように囁く。

「用事はもうすんだ、大人しく戻るのだ。代わりの餌なら後でいくらでもくれてやるからな、先ずは王都に入り込むことが先決だ」

そう地面に話しかけた男は少女が走り去った道とは別の方向に、何事もなかったように再び一人歩き出した。



「黄泉の彼方に溜まりし淀みの珪泥よ 闇気に宿りし迷える珠よ 我が力を糧としその身と成し給えよ いでよ冥府の守護主 クベールの御珠よ」

ナーガ族の長であるナーガ・毘沙・リューゼの真言が、守護者グーレムを祀ったタロース祭殿の大広間に朗々と響く。

緋色と褐色の瞳を閉じた彼は濡れ羽色の法衣を纏い、多くの参列者の前で古びた祭壇に向かって手を掲げていた。

全てが石造りの寒々とした大広間には沈黙の他に遮るものもなく、祭壇は厳かに異力である魔道の輝きに包まれていった。

荘厳たる祭事の中、頭を垂れる多くの名ある者たちの中で一風変わった幼い少女が、ただひとり辺りを見回しながら寒さに震えている。

少女の名はナーガ・羅・ググと言い、リューゼの娘で若輩にも関わらずグーレムの巫女であった。

彼女は、肌寒いこの季節には薄すぎる祭事の絹装束を纏っただけであり、この先の数日に及ぶ祭殿巡りのことを考え憂鬱な気分になりそうだった。

背を向けてる父と俯いたままの他の者をいいことに彼女は、辺りを見回すことでそんな憂鬱な気分を打ち消そうとしているかのようにみえた。


「何やってんだよ羅・ググ、またお館様にお叱りを受けるよ」

少女の気配に気づいたのだろうか、隣にいた少年が薄目を開けて小声で話しかけながら少女ををつついた。

父は祭事の中断を嫌ったのだろうか、その声には淀みなくほんの僅かに肩を震わせる程度であった。

「別に構いはしないわイル、あとで父様にせいぜい真言の復唱を食事抜きでやらされる程度だから、それにこの真言じゃあクーベルの姿さえ見れないし」

少女の返事は小声で話しかけてきたリベ・イルのそれよりも響いてしまったらしかった。

その証拠に彼女の父であるリューケンの肩は震えるにとどまっていたが、頭を下げ祭事に列席している客の中にも、ちらりとだけ異質な視線を向けるのを少女は感じたからだ。


「何してるんだよ、わかってるなら他の方々のように頭を下げおとなしくしてないと」

相変わらずリベ・イルの小さな小言は続いていたが、彼女は気にもしないで視線の主を幻視しようとした。

少女が瞬膜を開き顕になった黄金の瞳に異力を込める。

感じたそれは少女と同じく異形で特異な力を持つ者だけが放つ幻視であり、その持ち主をつきとめようと彼女は考えたからだ。


「…わかったわ、イル、大人しくするから」

結局わからずじまいの彼女は、リベ・イルにそう小声で告げることとなった。

少女が異力の主を見つけることができなかったのも無理はなかった。

人は自分とは違うものを恐れ、普通はそんな力など隠すものだ。

例えそれが取るに足りない、単に異力者を見分ける程度のあやふやな力であろうと。

現にその力を色濃く備えていた彼女の先祖たちは覇権に破れたあと、皇帝の一族に服従と隷属を誓うことで迫害と粛清を避け、その存続を許されたのであったから。


大陸全土に病のように蔓延るハーデス帝国の中央、冥府と呼ばれる王都にそびえ立つ王宮の奥の広間で、若き男たちが暇を持て余し戯れに興じていた。

「ケセリカの奴は、今頃どうしてるのでしょうか?兄者」

王族の証である剃髪に、紅をさしたような唇を持つ細身の青年が問いかける。

青年は、けばけばしい装飾が刻まれた長椅子に横たわり、従下女が掲げる盆の果実を手にしたまま弄んでいる。


「今は祭事の時期であろうから、季節知らずのこことは違い、あの陰石造りの陰気な場所で震えていることだろうな蛇足の小僧は」

そう答えた大柄な男は、同じく剃られたような頭にうっすらと汗を浮かべ、豪奢な椅子に腰掛けたまま言葉をかえす。

座した男は薄絹を纏っただけの青年とは違い、王族の衣装に身を固めていた。

華美を通り越し趣味の悪さが目立つ調度品を並べたてたその広間には、湯けむりの立つ水路が通され、帝都に訪れた厳しい季節など知らぬ顔の異様とも言える暖かさに満ちていた。

大柄な男が組んでいた腕を解き、いらつくように手元の鈴を鳴らす。

慌てたように身の回りを世話する従下女が駆け込んできた。

「いかがなされましたか?ブルトリカ殿下」

すぐさま男の前に控えた女は、心なしか身体を震わせているかのようにみえる。

「何度言えばわかるのだ、この役立たずめ。春の陽気をかもし出せとゆうのがわからぬのか」

鈴を手にしたままの男の制裁が容赦なく女の顔に鞭のように打ち込まれる。

「ぎえっ!」

呻きをあげて倒れ込んだ女は、再び控えなおる。

「申し訳ありません、直ちに」

謝罪もそこそこに呼び鈴で痛めた顔を顰めながら従下女は、広間の外へと出て行った。

「兄者は、ちと女に容赦がなさすぎるのではないのですか?」

細身の男が目を細め言葉を漏らすと、大柄な男は豪快に笑い飛ばした。

「フラム、嘘や甘言でさんざん女どもを誑かしてきた主の言葉とは思えんな」

「愚かなる女どもは、優しく上手く扱えとゆうことです。その道具の愚かさを利用するためにね。兄者のように手酷く扱って使いものにならなくなくなったら元も子もないですから」

「ではなにか?主のように散々使いまわして新しい物が手に入ったら捨てればいいと?」

「そこまでは、それに使いふるしが首を吊ろうが身を投げようが構わないですけどね、いずれにせよ女のような道具など履いて捨てるほど多いのですから。この冥府には」

「確かに主の云う通りかもな」

代わりに入ってきた従下女に汗を拭かれ冷たいものを手渡された男は、機嫌を直したかのような顔で深く頷いていた。




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10/29 改訂&補足
10/30 改訂
10/31 補足&改訂 改題
11/2 補足&改訂












その男は帝国の王都である冥府目指して歩き続けていた。

帝国最南端に建てられたタロース祭殿へと続く古びた石畳の街道を、くるぶしまで覆う異国風の青き装束を身に纏い一人きりで歩いてゆく。

男とは反対に国境の南に広がる広大な砂漠に向かうものなど数少なく、彼の歩みを妨げるものは冥府までの気の滅入るような距離のみであった。

「これでは埒があかぬな」

そうつぶやいて男は立ち止まる。

朝のうちにはそれでも辛うじて先を見渡せたその街道も、日が傾きはじめた今となっては、覆う木立に紛れ込み石畳とは名ばかりのそれを見失かねないほどだったからだ。

その暗がりに不穏な敵意が現れた。それは次第に数を増し遠くから男を囲み始める。

男は恐ることもなく呑気にその数を数え始めていた。

「随分と集まったようだが、一つあれあれば事足りるか…」


そして男はその顔に笑みを浮かべ、あっさりとまでに不穏な敵意を全て魅了した。


群れをなして現れたのは、この辺りに巣くう四足の毛深い獣だった。

季節に出遅れ獲物を探し求めていたのだろうか、一様に痩せこけ鋭い牙をむき出しにしてはいたが、鼻を鳴らし男を慕うように嗅ぎ回る。

目立つのを嫌ったのだろうか、男は街道を外れそれらが現れた木立の中に自らも入り、敵意から従順にと染め上げた獣達を招き入れだした。

男は擦り寄る獣のひとつにその笑顔を惜しみなく向け、おもむろに手を差しのべる。

獣の頭を撫でたその手は、その優しげな手つきを変えることなく獣の目にへと翳されることとなる。

男の顔に張り付いた笑みが凄みをます。

不意に伸ばされ突き立てられる指。

それはやすやすと獣の眼に押し入り、片方の目玉をほじくり出す。

魅入られたままの獣は、それに臆することなく目尻から絶え間なく血を流しながら大人しく擦り寄ったままであった。

男が満足げにそれを眺め、取り出した眼球を握り潰した血だらけの手のひらを広げ見つめる。

そしてそれは忽然と現れた。

まるでその血まみれの手のひらを媒介にしてこの世界に産み出たように思えるほどであった。

それは、何色にも染まらずに神々しく透きとおった玉のように見えている。

大きさは先程まで形があった獣の眼球より、少しばかり大きいものであろうか。

産まれたばかりのそれは、手のひらを汚す血糊の香りに悦ぶかのようにふるふるとまでに震えているかのようであった。

男はその邪悪とも言える神々しく透き通る玉を獣の空いた眼界に無理に押し込めると、言葉を発することなく獣の様子を伺うのであった。

透明であった玉は、流れ出る血潮を貪るかのように赤く染まりやがて奇なる魔的な輝きを帯びだした。

鈍い赤い光を灯しだしたそれは、もう片方の瞳さえをも侵食するかのように輝かせ、獣の身体そして内なる本能までも作り替えてゆくかのようであった。

獣であったそれは、一回りも大きくなり灰色から銀色にと変わったその身体の持つ新たなる牙で残りの獣を喰らいはじめ、ことを済ませ従順に男の前で頭をたれた。

男は満足げに頷いたあと、それに乗り再び遥かなる王都を目指すこととなった。それまでの歩みとは比べ物にならないほど素早い魔獣に運ばれる形で。

闇が世界に訪れた頃、小さな部落にたどり着いた男は魔獣を訪れた闇の中にと隠し宿へと向かう。

たどり着いた宿で主人に宿泊の意と予定を尋ねられると、男は短くもあっさりと語った。

「一泊の宿を願いたい、私はゴッドと云うもので王都を目指しているのだが」

と。



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「当主は居るか?」

古びた館の鉄格子状の門扉の前で叫び声をあげる男達がいた。それぞれが同じ甲冑を身にまといその手には様々な武器を握りしめている。

夕刻の静けさを葬り去るかのようなその騒ぎを、門を守っている兵士が立ちふさぐ。


「やれやれ、何の騒ぎですか…」

騒ぎを聞きつけたのであろうか一人の身ぎれいな男が館の中より現れた。

「あなた方は何者ですか?」とゆう男の問いかけに先頭に立つ者が返事を返す。

「我々は西方騎士団の者だ。この甲冑がその証拠である」

「確かにその紋章は西方を統べる辺境伯様のもの。しかしこのような静かな夕刻にいかようなご用件で?ご主人様方は只今食事中なので少々お待ちいただければと願うのですが」

「その食事中だからこそなのだ。現当主には重大な容疑がかかっている。その調べを行うための書状もここにある」

勢いに負けたのであろうか、先頭の男が取り出した書状をよく確かめもせずに身ぎれいな男はかぶりを振った。

「仕方ないですね筆頭執事である私の権限でお取次ぎいたしましょう」

「最初からそう素直に関心すればよいのだ。さすればこのような騒ぎも起こさずにすんだだろうに」先頭の男が満足げにこう応えた。

「ではこちらへ…この辺りが潮時なのですかねえ…」

執事と名乗る男の終わりに付け足されたの独白は男たちの耳に届くことはなかった。


館に入り男達を引き連れた執事が奥の間の扉の前で立ち止まるり中へと声をかけた。

「ご主人様、お客様が目通りを願っておられるのですが」

「構わない通しなさい」執事の言葉に中から返事が返る。その言葉に男達はなだれ込むように押し入ってゆく。


「おまえがアンジェルスサントス子爵だな?長年にわたる多くの孤児の殺害の…罪により拘束逮捕する」


「騎士団の諸君、いかにも私がアンジェルスサントスだが、私の容疑とゆうのは…それだけかね」

当主の意外な言葉に男達の代表は少しばかり言いよどむ。


「それと…それらの者を…食した…疑いもだ…」

笑みを浮かべた当主は代表の言葉にゆっくりと返事をした。

「それは…まちがいだね。御覧の通りまだ今日は食べ始めてないからね」

当主は皿の上の料理をフォークで突き刺し掲げて見せた。それは確かに手のひらまでついた子供の腕の姿をしていた。

「この様なまるごとの子供の姿焼きなどとゆうごちそうはさすがに毎日ではないのだがね」

「こいつを取り押さえろー!!」

代表の怒声が鳴り響く。

手にした武器を掲げ飛びかかろうとした男たちは、当主が突然放った閃光に目をくらませたのだった。

視力が戻った男たちの目の前から当主の姿は消えており、辺りを見回す様子に頭上より声がかかる。


「私を探しているのなら…ここだよ」

男達は食堂の高い天井を見上げる。

そこには光り輝く羽をはやした異形の姿が浮いていた。


「おまえは何者だ?」


浮かび続ける異形の者は厳かに応えた。

「我は聖なるみ使い…ヘヴンにつらなる者である」

と。




「この悪魔め!」

「悪魔呼ばわりとは心外な…我はみ使い、お前たちのゆうところの天使なのだからな」

「人が人を喰うために殺すそのような残虐な行いを悪魔の所業と言わずになんとゆう、ましてや子供を…」

「人が人を?我は人なぞではないのだぞ?それに食べるために殺すのは当たり前のことだ。
お前たちも我のように家畜を太らせて殺し食べるであろう」

「…子供らを家畜扱いにするな!この罪深き悪魔め」

「罪深い?食べるためではなく平気でただ同族を殺すだけのお前達の方がよほど罪深いとゆうのに。歪んだ同族殺しのお前たちがヘヴンの地より追放されたのは実に哀れな事でもあるがな」

「訳のわからない事ばかり唱えても無駄だ、おとなしく罪を認めるがいい」

「罪びとに罪を問われるのはやはり心外だ。子供だけを食してきたのが気に入らないのか?やがて成長し番いとなりより罪びとを増やすであろう子供だけを食することは合理的な考えだと思うのだがね」

「そのためだけにわざわざ孤児を引き取って生活を保障し育て殺してきたとゆうのか?」

「君らは病気の家畜を好んで食べるかね?やせたままの牛や豚が好きだとでもゆうのかね」

「貴様、また家畜などと」

「我はその辺にいる野生の人の子をさらってくるわけではないのだよ。正当な値段で買い取り保護をし飼育する、これすなわち家畜ではないのかね」

「かまわんこいつはこの場で殺すのだ。生かしておいては帝国の害となるだけだ」

騎士の叫び声が響いた。




男はベッドの上で目を覚ました。

「んっ?エヴァは…」

「うちの魔女の事かい?将軍さま。彼女ならソファーだよ」男のつぶやきに応えたのは聞き覚えのある声だった。

男がソファーに目を向けようとすると、自身の異常な状態に気づく。

「…身体が動かない?………ひっ!」

「ああそうだったね、これで顔だけ動かせるようになったはずだ」

不意に男を覗き込み驚かせたその声の持ち主は確かに知った顔であった。

「あっ、えっ、ミカエルどの?、どうして此処に」

夕べも泊まり込んだこの部屋はエヴァのもので、決して彼女の雇い主の部屋ではなかったはずだ。

その雇い主である彼が訳の分からぬことを応えその両手に自分の顔が包まれた事にもさえ疑問が浮かぶ。

とにかく動かせるようになったらしき顔をソファーに向けると、昨夜と変わらぬ裸のままの姿の想い人が慈愛に満ちた顔で座っていた。

ただ一つ大きく様変わりした孕んだ腹部を大事そうに撫でながら。


「エイデイム将軍には感謝しておるよ。早々に私のペットでもあるこの美しい魔女を孕ませてくれて」

訳の分からない言葉が続く。理髪店で知り合って以来確かに彼女に一目ぼれをした男は将来的な結婚とか二人の子供とかの事を夢見てそれから幾晩もの日々を二人で過ごしてきたのだが。

彼女の姿は紛れもなく妊娠しているように見える。

だが共に二人で朝を迎えるようになって二週間も立っていなかったはずだ。早すぎる、いやそれ以上に異常なことだと男は感じていた。


「彼女には加護を付けているからねえ、早期出産の加護を」雇い主である理髪店の主人がほほ笑む。

「貴様いったい何者だ?それにエヴァのあの姿は?」

「見ての通りの理髪店の主人だよ、エヴァは説明した通り私の可愛いペットさ、私に極上の献上品を齎す魔女さ。御覧の通り今回も彼女は期待通りの仕事をしてくれたよ」

「み使いでもある私がヘヴンより降りてはや数十年、彼女は毎月のように君みたいな男を捕まえては孕み続け私を喜ばせてくれる。そうそう不老不死の加護もあったかな?」


「本来ならば彼女は、やがて産み落とす私への貢物のために君を糧とし食らうはずだったのだが…方針が変わってねえ…ヘヴンのね。君には王となってもらう。大陸中央に巣くう忌まわしき黒き血の悪魔どもを始末するためにね」そんな言葉を聞きながら男は意識を失ってしまう。

そして次に目覚めたときにはその異常なまでの状況をすべて忘れ、理髪店に務める女に結婚を申し込むこととなったのであった。





「これで北方全ての地が陛下と殿下のものとなったわけでありますな」延々と死体が散乱する荒野を目の前にして老人が語った。

「だが、西方と南方の動向を気にし名目上は帝国となったこれら小国の情勢を監視せねばならぬのだろう?」

「その通りでございます殿下。現状に満足せず現状を疑い…「全てを疑うと…」」

「実に実に、その通りでございます」皇子の言葉に満足したかのように老人は深々と礼をする。


その様子を見た皇子は暫し考えをめぐらし後ろに控える者たちに命令を下す。
「先ずは、双方の生き残りを調べ手厚く保護するとしようか…。増援の部隊より人を出し戦場での負傷兵を回収せよ!敵味方分け隔てなくな!後の者と本体は首都へと凱旋だ!」

皇子の言葉によりそれぞれの部隊が動き出した。


「やれやれ、誠に甘き御仁だ。だが争いごとを好まぬ殿下がこうして初陣を無事果たしたことは、教育のたまものだと思うことにするかの…」

老人のつぶやきは軍馬の歓声の中にと消えてゆくのであった。


「しかしこれで本当に良かったのであろうか?」

馬を並べ並走する老人に皇子は問いかける。

「北方の安定こそが大陸の軍事均衡を保ちヘヴンの神が望む人々全ての平和と繋がるのでありますぞ。帝国の纏まりがあらずば西方や南方につけこまれ、大陸全土を巻き込む大きな争いとなり神の憂鬱をもたらすこととなりましょうぞ」

老人の応えは確かに納得のゆくものではあったが、皇子の心の疑問は消えなかった。

老人の言葉にさえ疑いを抱くことは、確かに教育のたまものであると言えるのかもしれなかたのではあるが。


そして長きにわたり帝国をなのり北方の覇を掲げた争いは、ここにひとまず終わりを告げたのであった。




「アシャル様、陛下がお呼びです」

「やれやれ父上の早急さにも困ったものだ。直ぐに参上すると伝えよ」王子
は苦笑いを浮かべ側近の言葉に応えた。

「父上、いや陛下、準将軍アシャル只今戻りました」

「有無ご苦労、そなたには今回の褒美をつかわす。おって沙汰を待て」

「有難きお言葉感謝いたします」

「うむ、用件はこれだけじゃ下がるがよい」

王子は、相変わらずの自己中心的な言葉に色々と思うことはあったがそれを表にすることもなく謁見の場より退出した。


「これだけの言葉なら落ち着いた後でもよろしいのでは?」思わず漏らされた側近の言葉に王子は笑いを浮かべ答えを返す。

「早急に皆に知らしめる必要があったのだろうよ父上には。それに陛下らしいではないか実に」

「確かにそうではありますが…」

「ここは父の王国だ。陛下の言動はまさしく神の行いに等しいわけだ」

「またそのような皮肉を…、大教皇様にお叱りを受けますぞ。それと非公式ではありますが事実上我が国は帝国となったあのです。皇子もそのことをお忘れなく」

「王子も皇子もかわりあるまい。帝国は我のものではないのだから」

「ですが…」

「父上は見ての通り未だ剛健だ。先のことなどわからぬよ」

「………」皇子の言葉に側近の応えはかえることはなかったのであった。


... 続きを読む

騎士たちは思い思いの武器を掲げて撃ち落とそうと試みるが、遥か頭上の異形に届くことはなかった。

「弓兵も連れてくれば…」

騎士団長が無念そうにもらす。

「団長。私は初級ならば火系の魔法が使えます」
一人の騎士が宣言する。

「では頼むぞ」

「炎の矢よ邪を焼き払え」

宣言した騎士が団長の言葉に応えるかのように呪文を唱え炎の矢を放つが、異形の発する輝きの前に消えてしまう。

思い余った騎士たちが剣や槍などを投げつけるもはじかれ続けるだけであった。


「その程度かね罪びとの諸君」

「我々を罪人扱いするな」

「君ら全て、いや人と名乗るもの全てが罪人だとゆうことに気づかぬ事こそが大きな罪なのだがね」

「一歩ゆずって罪深き者たちも中にはいるだろう。だが全ての者が人を無意味に殺しているわけではないのだ」

「同族殺しは罪のほんの一例、こののち残りの者も殺しを重ねてしまうかもしれないではないか。そもそも生れ落ちてこの方虫一匹さえも殺してないものなどいるのかね。それらのものは食べるために虫を殺したと言えるのかね」

「過ちは悔い改め償うもの、今生の罪もそれで打ち消されるものではないのか」

「償いとはただの死、死んで終わりだ。その存在の永久なる消滅を意味するもの」


「そんな道理では神さえもないではないか…」

「神はいる。罪人に我のような天罰を齎す神がな」


「戯言も終わりにするとしようか、ホーリーフレイム」
異形が放つ莫大な炎に騎士たちは包まれる。

炎は騎士たちを焼き尽くしやがて古びた館までも飲み込んでゆく。

後には何も残らず、異形の姿もいつしか消えていた。







ほんの蛇足    この文はいずれ消しますww



ボクの騙る物語は 背徳的 冒涜的なものが 多いのですけど

この ヘヴンは 特にひどくて カニバリズムや(み使いによるものですけど)

姦淫姦通 生と死についてのもの 人としての定義 タブーだらけの 記述が満載

何よりも 宗教的に✖な内容

こんな過疎ブログでなければ とっくに捕まっているかもしれません

煽動者として( ̄ー ̄)ニヤリ


まあ 他にも詭弁を連ねたい テーマは たくさんあるのですがww








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