FC2ブログ

スタンドのエントランスから見渡す早朝の景色は、想像を超えていた。

広がるダークグリーンの海原に双子の小さな太陽が昇り始める。

真っ赤な朝焼けは禍々しいほどで、メトロ育ちの俺にとって斬新で驚愕で、かつての傭兵時代のころにも味わったことのないセンスに珍しく言葉も出なかった。

外縁の銀河に位置する惑星ペローダアクアは、かつてのミッションで中型輸送艇での通過時に眺めただけである。

暗黒の空に浮かぶ二連の恒星に照らされた水の珠へと降り立った風景など、思いもつかなかったものだ。


もっともあの時はいつものように、それどころじゃなかったが。


「早いのね、ファング」もと7thのガーディが声をかけてきた。

本日の彼(彼女?)の声は、透き通るようなソプラノだ。


エルフィーである彼女は、周期的にセクシャルトランスフォーメーションを繰り返す。

休暇中の俺にとって、美女の連れは歓迎だ。

例え、他の時期には、いかついマッチョだとしても(しかも、オネエ的なのがなお更溜め息が出ちまうが)。

とにかく今日の彼女は、プラチナブロンドのショートとマリングリーンの瞳がこの光景ににあってる感じだ。


「なんか、凄い光景ね。怖いくらい」ふくよかな胸を押し付けながらガーディが寄り添う。

 …年中この姿なら飽きねぇけどな

俺は思わず心の中で呟いた。

<あら無理よ ファン 私達は繰り返す事でミスティカルパワーを保っているから>

<ふぅ 呟きぐらいさせてくれよ>

<この姿なら 又 貴方に抱かれてもかまわないけど>

「ノーサンクス、勘弁してくれよ」思わず本音が口から洩れちまう。

かつてこの魅惑的なボディーに惑わされた俺は官能的な一夜を過ごしたのだが、目覚めたときには
隣にフォーメーション後の姿があったのだ。


「それも、そうね」どうとったのかわからない返事が、ころころと可愛い声で返る。


「それにしても、素敵な休暇になりそうだわ。長官に感謝しなきゃ」

「あのじいさんのことだから、裏があるかもしれないけどな」

「そんなことより何かお腹にいれない?私はもうぺこぺこだから」

「じゃ、そうするか」

ボックスに向かいながら、少しばかり気がかりなこの間の夜の事を俺は思い出していた。





三週間前   コロニー メトロ


「そこのオニーさん、またれよ」俺らしきものを呼ぶ声がする。

立ち止まると路地裏の片隅のドアが開かれていた。

いかにも胡散臭い雰囲気の小部屋の中にとってつけたような怪しげな老婆の姿があった。

再び歩き始めようとしていた俺に更に老婆が声をかける。

「お前さんの行く末には暗雲が立ち込めておるぞ。」

「おれには、幸運なんて縁がねぇけどな婆さん」俺はそのまま歩みを続けた。

「黒き龍よ、お主の纏っている血なまぐさいサガの事ではない」

その言葉におれは立ち止まっちまった。


「じゃあ、なんだい?」

「龍が羽を休めしとき、災いが湧き上がる。水とおなごに注意するのじゃ、龍の涙を見ることになろうぞ」

「水難と女難?て訳かい、せいぜい気をつけるようにするぜ。サンクス婆さん、御代は幾らなんだ?」

「礼には及ばぬ。くれぐれも気をつけるのじゃ」

それっきり、今の今まで忘れちまっていたが海と美女?まずい並びだな。

泣きを見ないよう注意しねぇと。

 …やれやれだぜ まったく

今回のつぶやきはどうやら、今回は見逃してくれたらしい。

それともそれほど腹がへっているのか。

先に席に着いた絶世の美女は、広がる海をバックにして無邪気におれを呼ぶばかりだった。



ボックスのテーブルに腰を落ち着けると、メニューパネルが浮かんできた。

ガーディのお勧めで、産直らしいシーフードから選ぶことにした。

「この、シーモンスターのリゾットは美味いのか?」

「絶品よ!まだ若いシーモンスターの柔らかい部分だけを使った料理なの。フリットもイケルわ、とくに目玉のね」

「…そう云えば昔メトロでガキの頃、シーモンスターって名前の怪しいメイルオーダーのペットがはやったんだが」

「それよ、それ。同じ物よ」

「うへぇっ、赤い目玉で白い首長の亀の小さい奴」
…思い出しちまった。

「それの若い成獣が、美味なのよ」

「飼っていても、誰の奴も喰えるほどデカクなんなかったぜ」

「多分、環境が合わなかったのね」

「そう云うものか…で、この辺じゃどの位デカクなるんだ?」

「大きい子で、20ヤード位かしら」

「ちょっと、でかいな…」

「だから海の怪物ね、毎年のように漁の最中も事故とかあるらしいから」

そんなたわいない会話の途中で、不意にテーブル脇にフロートウインドが展開をした。

モニタリングされてるのは、長官である。

『やぁ ファングにミス・ガーディ。早い朝飯だな』

…なんだ?休暇の取り消しか?


『他でもない ミス・ガーディ』

「何か?」

…どうやら仕事じゃないらしい

『そのぉ 家内が モニカの奴がシーフードに目がなくてな…』

「あぁ それでね 長官がこんな外縁のペローダアクアを薦めたわけですね」

おれには、意味がわからない。それと、家内?モニカだと?。

『さすがは ガーディ君 いやミス・ガーディ』

「じゃあ ご自宅宛に 見繕ってお送りしますね」

『助かるよ 緊急転送システムのコードはD328C1964で頼む』

「承知しましたわ モニカによろしく」

『ああ』
ウインドは閉じていった。


「おいおい、緊急転送システムなんて軍事用だろ?それに家内とかモニカとか一体…」

「相変わらず、IMCB(生体用個人記憶チップ)をちゃんと確認してないのね」

「先だって長官は、御結婚なされたのよ。しかも30も年下の美人と」

「重要項目以外はみ、ないからな」

「『ドラゴンは忘れない』なんて言われていても、それじゃあね」

「忘れる事ができねぇから、余計な事は覚えないのさ」

「はいはい。冷めないうちに食べましょ」

おれは頷いて、亀野郎のリゾットを口にほおりこむ事にした。

あのジーさんに若い嫁か、帝国も衰退だ{世も末だの意味}。


「意外と美味いな。あんときデカクなりゃ喰っとけばよかったぜ」


「それはいただけないですね」

横から口を挟んだ奴がいる。どうやら店の奴らしい。


「お客様突然口を挟みまして大変失礼致しました。わたくしは、当スタンドのオーナーをしているものです。楽しそうな会話につい口を挟んでしまいまして」

丁寧に詫びが入る。

「構いませんわ。いただけないとは、なんですの?」

ガーディが問いただす。このオヤジの話にどうやら興味を持ったようだ。

「その、昔に通販で売られていたモンスターですが、生まれたては苦味があって食用に適しません。体長が12ヤード位にならないとうまみが乗ってこないので」

「やれやれ、喰わなくて良かったわけだ」

「この惑星の環境に近いモノを用意なされないと育ちが悪いので。モンスターは地元でも未だ養殖に成功していないのですよ。本来は臆病な性格なのですが、この時期だけ繁殖の為に気が高ぶっており、しかも油がのっているので」


「それで、こんなに美味なのね」

「そうです、…マダム」

「なんだと?」

…おいおい、いつからマダムなんだよ


「なにか?」

「こちらの事ですから」

ガーディは否定もせずに話を続ける。おれを無視して。


「マダムどうでしょう、クルージングなど。モンスターのことなら御心配には及びません、大型クルーザーには向かっては来ないので。自分より大きなものには手を出さないと言う事です。もちろん御主人も御一緒に」

「それは、楽しみですわ。それと、船内ではお買い物ができますかしら?」

「それはもちろん。土産物から、新鮮な食材まで当惑星の産物がずらりと用意されております」

「まあ、素敵。是非お願いしたいわ。いいでしょアナタ」

「あぁ…」

もう好きにしてくれとばかりに俺は返事をした。


商売がうまくいったせいか、ニコニコ顔でオーナーとやらのオヤジがさっていく。

…やれやれだぜ

俺は、同じような笑みを浮かべる俺の女房らしい女の顔を見ながらつぶやいていた。






スポンサーサイト




食事を終え部屋へと戻った俺達は、支度をして出かけることにした。

もっとも俺には支度なんて必要もなく、手ぶらで軽装、腕にはブレスが三つ。

いつもと変らない。

ミッション工作用の特殊重装備の類をはずしただけだ。

支度のやたらかかってるガーディをおいて、とっとと部屋をあとにした俺は、女房が予約したオートボートに先に向かう事にした。

エントランス脇に設置されてるボートピットは、リゾート気分のカップルで賑わっている。

場違いな俺の格好に、痛い視線がそそがれる。

そういえばここは、ハニムーンのメッカとかガーディが言っていたっけ。

痛い視線を巧みにかわしてポートに向かうオートボートに乗り込んだ俺は、遅れてエントランスにあらわれたガーディの姿をみて天を仰いじまった。

痛い視線が別の驚きには変ったようだが。

「お待たせ~、アナタ」ガーディが浮かれた口調で乗り込んでくる。

「EE!( * end of empire  帝政の終わり つまり 世も末の意味 * )一体なんて格好だ。それに、その後ろの莫迦でかい荷物」呆れ顔で俺は言った。

もっとも荷物の方は、ポーターがすぐさまオートに積み込んでいったが。

「あら、船の名前にちなんで衣装を合わせたのよ。マダムと言えば華やかなものでしょ?荷物の方は、衣装データが大半よ。残りはひ・み・つ」すぐさま寄り添い、腕を絡め話し始める。

ガーディの纏っているドレスは、肩口をかるく結んだだけの胸と背中がザックリと開いた真っ白で半分ほど透けているものだった。どちらかと言えば俺の好みに値はするが、俺は相変わらずの黒尽くめ。

まぁ、休暇って事もあって、ラフなシャツとパンツスタイルだから、かろうじてリゾート気分は出てるはずだが。見た目には不釣合いな二人連れだ。

「船の名前は古の古事にちなんで、’CUTTYSARK’と言うそうよ。昔は遠くの地に海路で産物を運ぶのが、この辺の主な仕事だったんですって。ロマンチックな名前だと思わない?」胸を摺り寄せ、抱きついた美女は俺の耳元に唇を寄せる。

「その古い酒と、どう関係が?」俺にはちんぷんかんぷんだった。

「やだわファン、そうじゃなくって帆船。船の方よ。その当時の船の名前の由来の魔女のこと。それをイメージしてみたの」さらに胸を押し付けてくる。

…EE 今度は魔女かい 妖艶ではあるけどよ
ちらりと胸元を覗いて呟いた。

ダークグリーに輝く海を横目に他愛のない会話は続く。

こっちは服飾の歴史なんてさっぱりだ。酒なら多少はくわしいがなどと思いながらも。

「確かに、ファンの好きなAL.J.W(アルタイルジョージウオーカー 強めの蒸留酒)なんかの元になった古いお酒のなかにも、同じ名前のものがあったけど」

「俺は、そっちしかシラネエけどよ」うんざりと応える俺。美女との会話は退屈はしないが、内容は少々飽きてきちまった。

『オ客様 到着デゴザイマス オ荷物はドチラヘ?』抑揚のない音声が響いた。
…やれやれ 助かった
俺は溜め息を飲み込んだ。やっと終幕だ、最初のシーンに過ぎないが…。

「衣装ケースは、船の部屋までお願いするわ」

『カシコマリマシタ マダムDD』
お決まりのやり取りの後、妖艶な魔女とその旦那は、港へと降り立った。

窮屈なボートから見晴らしの良い場所へと出た俺は、軽くのびをする。

「お待ちしてましたマダム」例のオヤジが出迎えてくれた。

「船は少々変ってますが、設備装備は惑星で最新のモノとなっていますから」

「あら、ありがとう、大変楽しみだわ。お買い物以外の楽しみはあるのかしら?」

「プライベートプールの他、各種の娯楽設備、もちろんお食事も豪華に豪勢にそろっております。ナイトクルージングの際には、スペシャルホールラウンジにて洒落たショーなど繰り広げてムードを高めますので」

相変わらず良く喋るオヤジだ。

「殿方には、古今東西、各地各種の酒に珍味、秘蔵の古酒まで。むろん船にちなんだあの酒までも堪能できます」

…意外とイイオヤジなのかも
勝手な事を俺は思い始めちまった。


「ささ、こちらです」

案内された駐留する多数のフローテーションライナーのなかで、そいつは強烈に目立っていた。

博物館の展示物か?とも錯覚するそのホルム。

帆がついてやがる。

しかも水の上に直接浮かんでいる。

もっとも擬似映像の類だろう、軍用の特殊迷彩装甲みたいなものだ。みてくれと勝手が違うとゆう奴さ。

「まぁ、素敵。浪漫をかんじるわ」それをみてガーディの奴は大喜びだ。

「擬似帆と水没した船体は単なるフェイクで、帆に見せかけた上部部分はソーラーエネルギーの吸収に使っております。船体はシールドで囲まれ安全性は保障済みです。華麗でエコな船旅をお約束しますよ」

オヤジはDOYA顔だ。


乗り込む際に、俺達より異色な集団をみかけた。

「オーナー、あの方達は?」ガーディの問いに、訳あり顔でオヤジが声を潜めた。

「実は、なんかのNCMの撮影の為に搭乗するらしいのですが、船外の撮影もあるとのことで、危険だからお断りしたところ、『身の安全は自分たちで取る。責任の追従はしない』の一点張りで、実に大企業は横柄ですな」

「それは迷惑な話ね、事故でもあったら…」

「そうですよ、私も気が悪いし。なんていっても評判が。多額の保障保険を頂いたので、それでなんとか承知したのですが」

…やっぱり 強欲おやじだぜ

<ファン 聞こえるわよ!>

どうやら少々大きめの呟きだったらしい。知らん顔して俺はタラップをのぼる。


「ははは、出発まで間がありますから部屋でご寛ぎください。また顔を出しますので」
そう残して男は立ち去った。どうやら船内の仕事へと戻ったらしい。


「ところで随分と俺達はお気に入りの客みたいだが」

「そりゃそうよ。都会的美女の来訪なんてここでは滅多にみれないでしょうから。それに豪華クルージングなんて御歳を召した方たちが多いし」

確かに他の客は上品ではあるが、高齢の連中ばかりだ。
まだ若く(連中よりは)上品ではない俺は、肩身が狭く感じ始めていた。

「早いところ部屋に入りましょう。ファンの着替えもしなくちゃね」

「着替え?」

「そうよ船旅にふさわしいカッコウにね」

どうやらあの荷物の中身は、俺もしらない俺の衣装まで詰ってるらしい。

どうでもイイがミッションよりもハードになりそうだ。

ポーターもかねているらしき案内係に通された上層の客室は、四部屋のスィートだった。

贅沢な寝室と大理石の浴室。

それとカウンター付きのリビングダイニングの三部屋が眺望の良い窓付きで、唯一内側のひと部屋がロッカークローゼットと小ぶりのキッチンと通路も兼ねているようだ。

どの部屋にもマルチビジョンとフリッジフリーザとかが無駄についている。

ガーディが浴室内のシャワーブースに入った間、俺の船内着を決めるように言われていた。

しかも昼と夜は別々にだそうだ。

しぶしぶとマルチビジョンから持ち込んだ荷物にアクセスをはじめる。

手荷物のリストから俺用らしい衣装を選び出す。

モニタに並んだ服飾の数にうんざりしながらも、一番楽そうな奴を選ぶ。

さすがに派手な色やとっぴなスタイルはなく、どれも暗めのダークスーツの類ばかりだっが。

ガーディが持ち込んだ荷物つまり、個人用とは思えないほどの莫迦でかいXBOX(物質再構成システム)に、一体どれだけのデータと圧縮数値化された素粒子がつまってるのか気が遠くなりそうだ。

箱のでかさで言えば、特殊重装甲機械化傭兵二名のフル装備分に匹敵するくらいの代物だ。

単なる衣装や日用品に換算すれば三部屋分位の数と質量はあるだろう。

まったく女って奴は気がしれない。

「ファン。選んでくれた?」シャワーブースからガーディが顔を覗かせると、着替えを始めようとして、あらかた脱いじまった俺を、突然に強引にブースに引っ張りこむ。

「駄目よ、着替えはシャワーの後よ」
抱きついてキスをした美女はブースから入れ替わりに出て行った。

残された俺は、全裸でもないのにびしょ濡れだ。

「下着も出しておくわね」甘い声が俺にかかる。

…あたりまえだ まったく やれやれだぜ
濡れねずみの俺は悪態をつくしかなかった。

シャワーブースから出た俺を待ち構えていたのは、小山ほどの衣装だった。

とりあえず部屋着(それでもかしこばっている)をあれやこれや世話をされながら、小山のような胸の美女に着せられる。

首の辺りがむずむずはしたが、特殊任務用の強化装甲のことを思えばまだましだ。

「こうやって着替えれば、リゾート気分も高まるわね」
…これは任務だ これは特殊任務だ
お構いなしのガーディの言葉に、俺はひたすら自分で思い込む。

夕食までの気の遠くなるような時間を、堅苦しい部屋着と絶え間なく続くおしゃべりを相手に俺は戦い続ける。

戦いも終盤、リビングダイニングのマルチビジョンのモニタが展開した。

例のオヤジだ。

『マダム、クルージングは楽しまれてますか?ラウンジでのディナーはどうです?ショウを見ながらの食事も格別ですよ』

「それはイイ考えね。そうするわ」

『そう言って頂けると思いまして、席は用意してございます。御案内の詳細を送りますから』それだけ言ってライブモニタは消えた。

…商売上手なオヤジだぜ 

 請求額はいったいどれほどか 

 もっとも傭兵時代の荒稼ぎで くさるほど蓄えはあるとは思うが

<そうね 大丈夫よ 一年程この船を貸しきるくらい アナタのN口座にあるわ>
どうやら俺の相棒はほんとうに女房と変らないらしい。

例えそんなことが可能でも、シーモンスター辺りと毎日格闘でもしていたほうが気が楽そうなだとは思ったが。

「それじゃあ、ラウンジにいきましょうか、アナタ」更に新しいドレスへと着替え、俺の着替えまでガーディは世話を焼く。


ますます窮屈な格好に、俺は前言を撤回することにした。

…特殊任務用の強化装甲のほうがずっとましだ 

と。


​ ​